EUの派遣労働者待遇改善問題

池田先生の言うとおり、
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/45a570dd0750a52fe80c0c775ac5c0a5
日雇い派遣」禁止して「日雇い」はどうするの?


まさに。
日雇いというのはある種テクニカルなタームで、文字通り1日づつという意味ではなくて、短期の期限付き就労を言うのだろうとは思うのだが、ともあれ、パーマネントに対置する就労形態のうちの派遣業を経由したものを禁止したところで、単発指向の業務は当然必要性があるわけで、現に昔から存在し、今後も存在するだろうところにあり、それを止めず、派遣業経由だけを禁止してみる、とはどういう成り行きを想定しているのか理解しがたいっす、舛添厚労相


しかも、よしんば、こういう措置を考案する必要性が現在あるとしても、犯罪者のアクションに誘発されるというのは、少し頭のある政治家なら、当然考慮に入れるべきだろう。モラルというものがないのか、この人には、と憤る方が馬鹿かもしれないが。

 EUの派遣労働者待遇改善問題


それはそれとして、舛添厚労相というフランス組がここで何かしたいと思ったとすれば、これも関係あるかも、など思ったりしたことが1つある。それはEU派遣労働者に対する待遇向上措置で各国合意したニュースがここ数日の間に出ていたこと。


で、それと軌道を合わせるように、2チャンネルでは次のようなマルチ書き込みが散見できた(下のまとまりを以下表1と呼ぶ)。


欧州 vs 日本
1)派遣労働者が受け取る賃金は必ず正規以上と法定 vs 正規の半分以下
2)派遣労働が2年超だと直接雇用義務 vs 期限撤廃して無期限派遣
3)派遣のピンハネ率は10%未満と法定 vs ピンハネ率は自由、平均40%以上
4)企業が支払う総額はガラス張り vs けっして派遣労働者に教えないブラックボックス
5)派遣労働者の巨大全国組合がある vs 何も無い
6)派遣労働は事業拡大時などにのみ使うと法定 vs 正社員をクビにしてどんどん派遣に置き換えてよい



これってどこの話なんだろう?と私としては結構疑問に思っていた。
2)はちょっとしってる。ただ、だから、2年になる前に雇用を切るってな文脈で。


で、1)は何?と思っていたところに、2チャンネルで次の書き込みを拾った。

派遣も正規と同待遇 EU閣僚理事会が合意
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-06-13/2008061301_03_0.html

【パリ=山田芳進】ルクセンブルクで行われていた欧州連合(EU)雇用社会問題相
理事会は十日、派遣労働者に正規労働者と同等の権利を認めることを盛り込んだ
派遣労働者指令案に合意しました。

合意された指令案は、派遣労働者が原則として契約開始の一日目から、賃金、休暇、出産休暇について、正規労働者と同一の待遇を受け、食堂、託児所、輸送サービスでも同一の利用権を持つことを規定しています。

 ただ例外として、各国の労使間の合意があれば、これらの権利の取得に必要な派遣労働者の雇用期間を個別に設定することができます。

日本での紹介元はアカハタだけだ、と2チャンネルでは言っていたが、それが本当かどうかは私にはわかりません。調べてないです。


で、この記事を頼りに英文検索したところ、確かに、ようやく加盟各国でこの合意ができました、ということらしい。6月9日。(ソース:例えばこれ


(ということは、表1の1)は今ようやく軌道に乗っただけでまだ法制化も何もされていないと思うんだが・・・。権利があるという確認の段階だ。論理的に考えて残るは欧米の米だが、米にそういう動きがあるとも聞きません。全く。)


ただ、反対していたのは主にイギリスらしいんだが、イギリス発のニュースによれば、イギリスの1300万人のagency workersは、雇用後12週間経過したら正社員と同待遇を得る権利を持つようになったとあるから、同一保障時期は1日目からというわけでもないのか、それとも各国ごとに猶予措置とかあるとか? (ソース:ガーディアン



実際問題、確かに12週間後=約4ヵ月後でも正社員と同待遇となるのはエージェンシー通しの労働者にとって朗報だろう。景気の悪い時にはワークシェアを考えたりもしてたし、景気が順調になったら労働者にも朗報をってことかと、それはそれでEUはいろいろ考えているんだなぁと素直に感心する。


ただ、ふと思うのは、これで同一労働同一賃金への道は開けたかもしれないが、これってでも、加盟各国ごとの賃金スケールの絶対値が大幅に違っている中での同一労働同一賃金なんだよね・・・


例えば、カナダ、アメリカ、メキシコがFTAの枠組み内で同種の合意に至った、とか言ったら(現実にはFTAはそんな枠組みじゃないが)、みんな喜んでくれるのか?とちょっと疑問に思った。


依然として企業および個人は、絶対値の高いところ、または低いところへの流動が確保されている、あるいは言い方を変えれば、その流動性にさらされていると言えるのではないのか。つまり、これは企業活動にとっての選択肢が減るわけではない、苦しさも半分、みたいなところがあるからできる部分もあるかな、と見える。


逆にいえば、流動性確保に関して問題の残る日本企業が二の足を踏むとしたら、それはそれなりに理由はあると言えるだろう。(だからこれでいい、と言い切っているわけではないが。)

 EUの最低賃金法


ちなみに、EU最低賃金各国別。
下のURLは表組みが見やすいがこれは2004年のものなのでかなり古い。
その時点での比較でいえば、最高フランスの時給EUR 7.61、イギリスEUR 7.14の時点で、ブルガリアEUR 0.36、チェコEUR 1.24、ラトビアEUR 0.71・・・って、なんだかなぁ・・・と呆然是とする程の差がある。
http://www.eurofound.europa.eu/eiro/2005/07/study/tn0507101s.htm


wikipediaがおそらく最新であろうものを持っているのでそこで拾いたいのだが、ここは各国通貨別表記なので簡単に比較できない。1ヶ月単位でこられても基本労働時間も不明だし。適当にピックアップしてみる。


フランスの2004年の月間が、EUR 1,286.09

ラトビアの2004年の月間が LVL 80 (EUR 120.26)
ラトビア最新が 120 Latvian latu

つまり、2004年でラフに10倍あって、最新ラトビアはかなり上昇したがまだ遥かに下のまま。


スペイン2004年月間 EUR 490.80
スペイン最新月間  EUR600


ポーランド2004年  PLN 860 (EUR 189.98)
ポーランド最新  PLN 1,126


といったところを見ると、これだもの、人々は過去10年移動し続けたわけだ。
で、その間にあっては、同一賃金問題よりも、この流動性にどう耐えるか問題の方が大きかったのではないのかと想像して悪いようには見えない。高い尺度の方に行けばいい(企業側にしたら低い方に行けばいい)っていう動機の方が圧倒的に優先されるだろうもの。


最近すっかり有名になった最低賃金法のないドイツはここにも記載がない。
さらにもっと最近知ったところでは、ドイツだけじゃなくて、そもそもEU内で最低賃金法を持っている国というのが、27カ国中18カ国しかなく、ないのは、ドイツ、ノルウェー、スェーデン、フィンランドデンマーク、スイス等々らしい。このへんは国家(あるいは州か)の制定法によるのではなく組合が団体交渉で決める、というコントロールの仕方をしている。(例えばのソース:wikiminimum wage


ということは、上の書き込みの5)EU各国には巨大労働組合があってそれが団体交渉をしてくれる、っつても、これがなかったら法定がないんだから、底が抜けちゃう可能性があるわけだし、そもそも、低賃金諸国と関連している場合には事実上底がない場合もあるだろうし、そこからはみ出ている労働の人には支えがない状態、とも言えるんだろう。

 EU内の派遣労働者概括


ではこの6月までEU内の派遣労働者はどのような感じだったのか。
その名もずばりのタイトルで、European Trade Union Confederation(欧州労働組合連合)が説明していた。2007年12月付け。

Temporary agency workers in the European Union
http://www.etuc.org/a/501


それによれば、

・派遣労働=Temporary Agency Workは過去20年間急速に拡大した。

・イタリア、デンマーク、スペイン、スェーデンでは派遣労働者は5倍になり、大部分の国でも最低2倍になった。

・2000年時点で加盟15カ国の2%が派遣労働者で、各年で600万人程度が登録している。

・新規加盟国でも増大しているのが詳しい統計はあまりない。

・ますます多くの国が派遣労働者を使うようになっている。

・どういう職種が多いのかは各国異なっており、イギリスでは80%がサービス・公共部門、フランスでは3/4が建設・製造。

・加盟15カ国内では大部分の労働者は男性だが、北欧諸国では女性が多く、オランダ、イギリスでは同比。

・調査の結果として、多くの派遣動労者は、正規社員よりも仕事と待遇について不満がある。



ということらしい。ま、取り立てて目新しいものもない感じか。

で、その後問題点として、正規雇用者に比して仕事の種類ややり方について自分で制御できる部分が少ない、トレーニングが少ない、仕事場での自己の率が高い等があげられている。

また、派遣労働者であることは不安定だと認識されていて、その一例として、フランスでは平均の契約期間が2週間だとある。

賃金については、例外的なものもあるが(正規雇用者よりも高いスカンジナビアの看護士さん)、同様の仕事であっても低めの賃金であり、ボーナスや福利厚生が排除されている。



と、こうしたことを受けて、提案がまとめられました、となって、それが今月になって合意に至った、という話のようだ。このページ内には、1995年からの取り組みが紹介されている。

ということで、表1は嘘でもないがとてもトリッキー。とりあえず、EU内も今の日本と似たりよったりの状況の中から1歩前進したとうわけで、ずっとそうだったわけではないし、まだ、法制化されたものでもないので、ちょっと誤解を生みやすい話がナイーブにも出回っていると言ってもいいかと思う。

 今後の展望


本当に法制化されていくのかという直近の問題もさることながら、この決定がEU経済のピークに来ているということも相当に気がかりか。


また、上の最低賃金比較を書いていてしみじみ思ったわけだが、既に世界最高水準にある国家群(要するにG8とかの国)の労働者にとっては、同一労働内の同一待遇が達成されようとも、そんなことよりも、次から次からの安価水準の労働者の移入問題の方が余程、不安定要素だっただろうことは疑いもないし、今後もそれが止まることはほぼない(EUが東方拡大政策を採るんですもの)、という意味で、なんか、大変だよな、と思った。


さらに、諸々の事情と同じく、イギリスが大陸諸国連合の合意の邪魔をしているようではあるが、別のパースペクティブからは、例えばフランス人たちが結構な量でイギリスで働いていたり(もちろんポーランド人の大量さは言うまでもないが)するように、ここが欧州内アメリカみたいな位置で雇用の弾力性に一役買っていたと考えることは可能だろう。

 私のまとめ

EU内で、派遣労働者正規雇用者の間の同一労働に対する同一待遇を推進する動きがあって2008年6月前進したようだ。

EU内での派遣労働は過去20年間増加傾向にある。

・賃金格差是正の動きがある一方で、各国間の賃金格差は依然として非常に大きいことから、労働力の流動化は今後も避けられないだろう。

・したがって、派遣労働者の待遇改善問題が、域内の先進諸国内労働者の雇用の不安定状態、少なくともその心理状態に対して大きなインパクトを持つのかどうかは依然不明と言うべきかと考えられる。