弱い米ドルの余波

本格的に寒くなってちょっと風邪気味。相変わらず季節の変わり目に対応できない間抜けな私。頭の中で、まだ10月、10月には10月にふさわしい格好を、と考えるから、このジェットコースター風に季節が冬に突進する地域で対応できずに(30度から10度になる。サンダルの次はブーツ、とも言う)、気がつくと撃沈されてなかなか浮上できない。

つまり、この地では、10月には10月のではなく、自分が寒いと思ったらいついかなる時でも、8月だろうが3月だろうがコートを着て毛布をかぶって寝る覚悟こそ肝要。わかっているのにできない。ああ。

カナダの秋は美しいのだが、しかし秋がどこにあるのかを発見するのが難しいともいう。あっという間に葉が落ちて裸の木ばっかり、つまり冬の景色になってしまう可能性があるから。でも、山が多いところに行けばそんなに急に変化することはないのであと2週間ぐらいは秋の観光が可能だと思われます。いらっしゃる方はくれぐれも、天気予報が伝える温度を見て、日本標準の感覚でとらえることのないようお仕度くださいませ。北緯40度以南の日本で考えれば冬というのが中部、東部カナダの秋だぐらいの感覚でいれば大体対応できるのではないかと思われます(したがって冬は超・冬、未知の世界、と)。太平洋岸のバンクーバーは温かい(東部との比較で)ので特に考えずともだいたい問題なしと思われますが。


と、冬仕度に忙しい(りすとかクマじゃないんだから、実際には何もない)カナダは1か月前にパリティとなった米ドルのまま、米ドル97セントがカナダドル1ドルぐらいの感じを中心にここ2週間ぐらいこのまま。どうなるんでしょうかと言っては見たものの米ドルの弱さ、原油高に変化がないし、カナダの国内統計も別に悪いものは特にないどころか雇用もよかったし、こちらも特に大きな変化はなかったと思う。というか、仮にあったとしてもそもそもサイズの小ささもあるから、米ドル、原油の問題の大きさの前にはカナダの指標が多少ぐらいつてもあんまり変わらないと思うので、ここは全体トレンドの方が優位という感じでしょうか。

そういえば2週前にアメリカ、カナダ共に3連休(月曜がお休み、ロングウィークエンドという)だったのだが、それが丁度この米ドル、カナダドルのレートになって初めての大きなお休みとなった。その結果、カナダから大量の人が国境を越えてアメリカになだれ込み、お買いものに精を出したというのがニュースになっていた。

アメリカ側からのレポートで、今日のうちのお客さんは75%ぐらいがカナダからですかねぇ、と言っていたお店があったがそれもありだと思う。なんといっても30年ぶりの等価(たいていの人にとっては初の等価だろう)、それだけでも得した感じがするから、強いカナダドルでお買いものだぁとなるのもわかる。

しかも、ここにはもっと理由がある。そもそも非常に多くのものはアメリカから輸入されているからなのだと思うが、同じものをカナダで売る時には、レートを反映した別のプライスが付いているのが普通。つまり、アメリカで10ドルのものが、カナダで12ドル、みたいな感じで物が売られていた。これがレートが実際、カナダドル20%安、せいぜい10%安ぐらいの時にはだいたいリーズナブルに見えたわけだが、等価に近づくにつれ、カナダで売られているものは割高だ、になってきた。別に各企業も為替で勝ちたいといことでもなくて、単純に価格訂正が追い付かないことを主要な理由として、後はカナダにはカナダのレギュレーションがあるからその分を若干乗せてたりするのかな、とも思う(微々たるものだとしても)。


一番目についてわかりやすいのは書籍の値段か。書籍は、同じ発行物がアメリカ、カナダで売られることになってるらしくて、それぞれの値段が刷り込まれている。


例えば、目についた本で結構な差異が見えるのは、フランシス・フクヤマのThe end of history and the lastman、
アメリカ$15.00
カナダ$21.00

と最初っから刷ってある。すると、これって、いつのレートなの?なわけだが、本屋はこのまま売ってる。たぶん仕入れ値もそれに対応しているから本屋は時々の為替レートに対応したら自分で損するということなんだろうと思う。(しかし40%っていかに何でもレートだけではないんだろうなと見える数値ではある。ひょっとしてずっと為替で儲けてたのか、という気もしてきた)

しかし買い手にとってそんなことは知ったことではないので、アメリカで買うのが得だ、となる。
これは今に始まったことではなくて、前からこういう人はいた。高価な本とか、たまたまついでがある場合は書籍はアメリカで買った方が得だと言っている人は結構いたし、実際その確率は確かに高かったのだが、今現在では、すべての書籍はアメリカで買った方がずっとお得だと言っても言い過ぎではないと思う。おそらくアメリカのヤフーを使って送料をかけても元が取れるケースも多々ある、というレート。


カナダの本屋さん、どうしてんだろう、という興味で行ったわけではないが、たまたま立ち寄った休日に雑誌売り場以外は閑散としていたことがあったのは本当。もちろん偶然なのかど定点観測を続けないと意味はないが。あ、でも、大手の本屋チェーンのメンバーに配られる四半期ごとの冊子に$5の割引券が付いていたことを見ると(定期的にあるもの以外に)、これは危機感なのか・・・。

(ただ、現実的にはカナダの本屋業界って諸々のリテールと同様結構な寡占状態なので、ジャイアント本屋のプロフィットに関しては今のところ特に影響はないという話だ。)


対してその週末に見たCNN(つまりアメリカ側)では、カナダ人買い物客がおおはしゃぎの様子を見ながら、いいんじゃない、こうやってアメリカのリテールが良くなれば私たちにとってとってもいいことじゃない、これ?とキャスターがいい、別のキャスターだかゲストだかが、でも、強いドルはアメリカの国益説はどうなっちゃうの?と疑問を述べるものの、でも、いいじゃない、そうだよね、そうそう、と笑いになっていた。直感的なものではあるにせよ、今売れてる、に適うものってないんだなぁと感慨深かった。


補足:アメリカのお買いものが俄然お得に思える理由がもう一つあった。カナダの消費税相当分は連邦、地方合わせて14%。アメリカも日本よりは高いけどそこまでではない。従って、この分だけでも、アメリカで買いものをする方がいい、という状態は潜在的にあった。

そういう事情で、アメリカに行ったら人々は買い物をするものと政府も見越しているからだと思うが、関税当局は何日の滞在に対してここまでは無税というポイントを提示していて、それを超えていても申告しないと最高税率(確か18%ぐらいだったと思う)をかけられる。

しかし、誰がいくら買い物をしているのかをどうやって把握するのか、は当然難しいわけで、空港とか陸上の国境ポイントでは、税関のおばさん、おじさんが抜き打ちみたいに人をピックアップしてトランクをひっくり返して、ひっくり返された側は憤慨する(なんで私だけぇ・・・・)という光景が断続的に存在する。個人的には、この制度はいい加減にした方がいいと思うけどなぁなど思う。理由その1:だいたい不公平。その2:だって、すべてのものがカナダで買えるほどにカナダ市場は充実していないってのも本当だから。

とりあえず背中は撃つな、背中は


弱いドルを笑ってみていられるのは強いアメリカだから、と考えたいところではあるし実際まだまだ強い国だとは思うが、しかし例えば、同盟国を背中で打つようなことを普通にやれてしまう昨今の事情を見ていると、アメリカは結構深刻だよなという感じを受けてもいる。

トルコが国境付近でいわゆるPKKにトルコ兵が襲われても北イラクへの侵攻を思いとどまっているのは誰でも知っているその最中に、100年近くも前の事件を持ちだして非難決議をする、というのは一体どういう心理なんだろうかと私は非常にほの暗いものを見ているような気がしている。

というか、お前はあほか、という気分だなぁ、この話は。
アメリカとメキシコの国境付近でアメリカ人が13人殺され、その報復を控えろと言われているところに、わざわざタイミングをそこにあてて日本ではアメリカ人の原住民虐殺を非難する決議案が国会で上程されています、とかいう状況に自分が耐えられると思っているんだろうか?

で、それ以上に北米のニュースの取り上げ方が私としては、ああいやだ、という感じがしてる。

トルコの国境付近でのテンションが高まっていることから原油価格が上がっているわけですが、とすっかり話のとっかかりにすんなり入れているが、自分で煽っているという話に言及しないことも非常に多い。というか、別々の事情として取り扱われている感じか。だから、国境付近のそれはそれ、自分のところの議会の決議はそれはそれ、みたいな。自分のところでは勝ってに分けられるかもしれないが、やられる当事者としたらそんなわけにはいかないのだというのを集団で忘却している。つか、見ないでいいことにしている、といった感じか。

こういうのって強気一辺倒の実際強い国がやっていると恐ろしいが、そうでない場合は何か凋落を感じさせるものがある。
トルコの一件は、クルド独立プログラムの一貫としてトルコの暴発も必要、ぐらいの調子で煽られているのかなとも見えるし、それって、たぶん、欧州vsトルコではありだとしても、アメリカがやってはシャレにならない話なのではないのかなどとも思う。

欧州はほら、そもそもトルコに激しく意地悪なのはデフォだし、トルコと聞くとトルコ共和国じゃなくて、頭の中にオスマンを浮かべてヨーロッパを守れ的なムードを敷いている傾向もかなりあると思う。さらには、オスマン解体のあのすごさ、ルンルンで領土取っちゃうみたいにして領土取りをしにいったことの正当性はすべからくオスマンは悪いやつだから、にしないと確保できない、という潜在的なスキームの問題もあると思う。
(当時は帝国主義だったんだから別にいいじゃん、強いから取ったのよ、と言ってしまった方が余程心理的な負荷は小さく、別の理由を見つける必要もなく総合的な被害は小さい、などとも思うんだが、そういう開き直りはみなさん苦手らしい。)

ま、諸々、それはそれでどうかと思うことの方が多いが、実際彼らは歴史的に隣人には違いないのである程度当事者も見てる側も汚い試合も可、みたいなところはあると思う。でも、アメリカって遠い人なので、あくまで法と秩序の擁護者として振る舞ってなかったら、というか少なくとも当事者の目先の利害とは異なるものをプレゼンできなかったら、その地に関与できないんだと思うのだが・・・・。

ま、その、イラクでの戦争を始めたあたりからずっと言われていることがここでも本当になっているような気がする。まるでアメリカを貶めるために諸々の事を起こしているようだ、というそれ。ドルの弱さを受け止められちゃう人々と重なって見える。私たち並の国だから、別に道徳性とかいらないし、みたいな感じになってきたのかなぁみたいな・・・。多極化かぁと思うと気が重いけど、もう昔みたいなことをアメリカに期待できないのも本当には違いないわねぇ、みたいにも思う。多極化とは早い話が基本的には自分のことは自分でという時代だと思えばいいのだな、など思う。そこで国連が、なんて全くのナンセンスなのは言うまでもない。

 レファレンスなど

下でfinalventさんに教えていただいたWPの記事を読んだついでに、先週と今週に読んだEconomistの記事もリンクしておきます。ご参考までに。
ま、ふつーに考えて、なんでよ、という声はやっぱりあるわけで、そうでも突き進む米国下院というより民主党って何よという疑問があらためて沸く今日この頃。


ワシントンポスト(10月10日社説)
Worse Than Irrelevant
A congressional resolution about massacres in Turkey 90 years ago endangers present-day U.S. security.
Wednesday, October 10, 2007; Page A16

http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/10/09/AR2007100901892.html

サブタイ、90年前のトルコで起こった虐殺についての下院決議は今日の米国の安全保障を危うくする

概ねなるほどと思って読むが、私としてはそれにもかかわらず、やっぱり、下院の行為がトルコのナショナリストの政治家の反応を引き越してどうしたこうしたと書かなければならないところにアメリカのダメさを見る。遠慮がちというのかなんというのか(自分んちに遠慮して他国に無理を強いる、と)。
よしんばどんな事情であれ、トルコ人が攻撃を受けている事情があるのだから、反撃すべきと出る行為はナショナリズムというより国家というものの仕組み上避けられない行為ではないのか? むしろここまでそれにもかかわらず下手な反撃をして事情をわやにしないで、当該地域を安定させようとしているアメリカに協力してくれています、とでも言うべきではないのか? で、もし、彼らの行為が奇異に映るのだとしたら、911以降の自分の行為はすべて正統なものではなく「ナショナリズム」の故と自分たちの分も語り直すべき。ま、ナショナリズムの標準化で、これはれでいいのじゃまいかという気もする。


The Economist(10月4日)

Genocidal follies
Oct 4th 2007 | ISTANBUL AND YEREVAN
From The Economist print edition

http://www.economist.com/world/europe/displaystory.cfm?story_id=9910136

このタイトルが目を引く。虐殺的な愚行? 虐殺に関する愚行、でも意味は通るけど、ものすごーい愚行という感じがする。
なんのかんのといってアルメニア人とトルコ人は地場で仲良くしつつある情景を枕にしていることからも、愚かなことをしているアメリカ、という意味は動かないと思う。


The Economist(10月11日)
Judging genocide
Oct 11th 2007 | ANKARA AND NEW YORK
From Economist.com

Strained relations between Turkey and America
http://www.economist.com/daily/news/displaystory.cfm?story_id=9946751&top_story=1

翌週では成り行きを説明。ブッシュ、キッシンジャー以下歴代の高官が揃って反対している様子を説明。
こっちはむしろアメリカの側の安全保障について問題あるんじゃないの、という示唆を投げている。
ジェノサイドを裁く、といタイトルが示唆している意味はさらに深長。

 リファレンス2

現地時間16日夜までに出たもの。

ふと見たら昨日までの出方とは違って結構トーンがあがっている。
ロイターソースでは、主要な民主党議員も反対に回っている模様。

メジャーなところでは見解、異見として反対が表明されている。

WSJのオピニオン版
Secretary of State Pelosi
The Armenian genocide doesn't belong in U.S. foreign policy right now.
Tuesday, October 16, 2007 12:01 a.m. EDT
http://opinionjournal.com/editorial/feature.html?id=110010738

アルメニアのジェノサイドは米国の現在の外交方針には入ってない、と。


外国ものでは、上のエコノミストもそうだがイギリス別紙今日になって加勢。

・タイムズ
Stirring up the past, jeopardising the future
October 17, 2007
http://www.timesonline.co.uk/tol/comment/columnists/bronwen_maddox/article2673395.ece

過去をひっかきまわして将来を台無しにする、まさにその通り。



普通っぽいアメリカンの反応も調子が高くなってる。

・カンサス州の新聞
Ms. Speaker, What Are You Doing?
http://voices.kansascity.com/node/102

議長、何してんですか、と。
議長とそれを支持する人々はこれは普通の政治よと言うかもしれないが、その行動が多くのトルコ市民を平手打ちしてる=侮辱してるわけですよ(such an action is a slap in the face to many Turkish citizens)、といったトーンが出てまいりました。
これは、問題がワシントンから完全に地場へも波及している兆候といってもいいでしょう。教養高い人はこういう感情を無意味として扱うかもしれないけど、アメリカ人の強さも弱さもここでしょう、など私は思う。


これっぽい見解は多数。なんかあっという間にペロシさん包囲されている風。


では今日になっても賛意を表明しているところをと思って、カリフォルニアのサンフランシスコ・クローニクルもチェックしておこうと見たら、アルメニア人がこれは大事なことで云々と投稿している記事の下に、みっしり10のメッセージ・・・。
ttp://www.sfgate.com/cgi-bin/article/comments/view?f=/c/a/2007/10/16/ED0LSPCAQ.DTL

それはそうとしても、今やんないでよ!とか、自分たちの兵隊がイラクに行っててそれが危機にされされる時に何で百年も前の事件の話なのよ、とか、果ては、その決議案はクリントン時代にできなかったことだよね、なんで今やるの(クリントンは自分の保身でできなかったんでしょ)等々のメッセージが付いていた。

いやぁ、なんというか、リベラルな人たちって相対的に結構よく事件を覚えているので、他の多くの人にとってはたまたま、でも、地場のリベラルにとってはまったくたまたまではないわけで、今まで何度もできなかったのに何で今火急の要件みたいにしてるの、とかえってえらく反発されている模様。

もはや、ペロシと仲間たち以外に仲間はいないのでは?
民主党、これは対応を誤るとペロシさんとその仲間ではすまない可能性も出てきてないか?


でもって、ここから上のワシントンポストを思い出すと、アメリカ人の生の感情みたいなところからはずいぶんと遠い、遠慮しがちな説だったのだなぁと改めて思う。それがワシントンのロビーの現場を反映しているのかそれとも、やはりリベラルっぽい見解にしておかないという説話の枠組み、編集方針があるからなのだろうか。興味深い。

 トルコ、テンションを下げてきた模様

(東部時間17日未明)
Turkey Says Iraq Incursion Not Immediate
http://ap.google.com/article/ALeqM5hHDG79AIius7McB6xz3lTQFLIdhQD8SAOFK80

トルコのエルドガン首相は、北イラクを本拠とするクルド人ラベル(反抗者でも抵抗者でもテロリストでも)に対する軍事的措置の承認を議会に対して求めていた問題で、その措置は今すぐにということにはならないだろうと示唆している模様。アメリカ、イラクを始めとした各国から自重を求められていることや、先行きの見えない原油高になったらどうするの、への配慮と見られる、という感じか。

さらに、エルドガン氏の外交政策アドバイザー氏は、仮に決議案が通ったとしてもブッシュ政権に対抗するようなことはすべきではなく、それは米議会でその決議案をサポートした人たちに向けられるべきで、サポートしたアルメニアにも制裁を課すとか、みたいなことを言っているようで、後半はともかく、これは米軍への協力とりわけ輸送をやめたりしないよ、ということだろうか・・・。多分。


動いたなぁと私は安堵するものだが、明日また民主党が猛攻に出てきたりするんじゃないかという危惧はまだあるだろう。


米側も見直しの動きが本格化。

トルコ「虐殺」決議案、下院での採決延期か
http://cnn.co.jp/usa/CNN200710170006.html

ワシントン(CNN) 第一次世界大戦当時にオスマントルコが実施したアルメニア人殺害を「大虐殺(ジェノサイド)」と認定する米下院外交委員会の決議案について、民主党のホイヤー下院院内総務は16日、下院本会議での採決が延期される可能性を示唆した。


ついに、民主党も本格的に気付いた(と思いたい)。