欧州フロント・北極海フロント

EU首脳会議は反保護主義を確認、中・東欧への支援では合意せず
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-36747920090302

中・東欧の加盟国に対する大型支援については合意に達しなかった。中・東欧加盟国はハンガリーのジュルチャーニ首相主導で、経済危機により通貨が打撃を受けている同地域への1800億ユーロ(2280億ドル)規模の支援に加え、ユーロ加盟の準備期間短縮を求めていた。

西欧側からしたら、聞いてないです、としか言えないでしょう。そんなドでかい支援は、西欧諸国民を説得できないと思うもの。


で、この合意が来る前に、英エコノミストが、
The bill that could break up Europe
http://www.economist.com/opinion/displaystory.cfm?story_id=13184655


中東欧助けないと、ユーロの価値にもかかわってくるし、EU危険になっちゃうよ、だから助けないとだわ、という見解を出していた。先週末の号。今週出回る号はこれが表紙。


エコノミストはこのターンはずっとはずしまくっているというか、英金融界の言うようには世の中動いていないんですよ、という事態なので、これはスルーされるのではなかろうかなど私は思っていたのだが、やっぱりそうなったようだ。

でも、
エコノミスト等は本質的に強い欧州を嫌い、ユーロ勃興に危惧を持つ側(本質的にそれというより、成り行きの方か?)とすれば、ここで大きな欧州を支援させて、ちょっとやそっとでは取り込めない地域まで欧州とみなさせていくことによって、西欧側の各国民感情がぐだぶだになって、騒動が起きて、EU解体へと至る、という道筋を期待してたりして、とか逆を考えてみたくもなる。


で、事の発端は、もう昨年から(というかもっと前から?)、一旦何かあったら東欧がげろげろにヤバイとはみんな思っていたことがその通り、そこが問題になったことで、その資金源が、ドイツ、フランスの銀行だけでなく、オーストリアGDP比で言えばエライお気張りでしたな、だったり、スウェーデンがバルト3国に貸し込んでいたことで、多少の驚きがあったというところが新しいだけではないのかとかも思う。

さてしかし、スウェーデンバルト三国といえば、ノード・ストリーム。
ロシアから直接ドイツにガスを送るという壮大なパイプラインプロジェクト
で、このプロジェクトは、ガスプロムとドイツ2社、オランダ1社できっちり100%保有していたのだが、フランスのGDF Suez SA に声をかけているらしい。どういう意味なんだろう?
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601085&sid=aY9TyPQ52RXY&refer=europe


基本的に、ウクライナがぐじゃぐじゃである以上、エネルギーの取り込み口を工夫するっきゃ方法ないっしょ、ではあるだろう。でも、ひょっとしてウクライナがきちんと立つことを促す意味もあったのかなとかも私は思っていたのだが、どうも本当にやるんだね、これ。私は甘いんだわ。


ある意味、EUの拡大統合の整理期間で、揉めに揉めるような事態があった場合への、先進諸国側としての保険なのかなとか思ってみたりもする。どう考えても、中・東欧勢の言いたい放題に産業界の運命を託せないもの、ということかなとか考えると、合理的な選択と言うべきなんだろうかなとも思う。


そうなった場合、アングロ・アメリカンはどう出るんだろうか。このへんは、まったく関係ないような顔をしているけど、ブッシュ政権は12月末に、グルジアウクライナに駆け込みみたいに戦略的パートナーという位置を与えてる。このコミットメントがあるから、恐らく、両国の大統領たちは、あれだけ不評でも降りないんじゃないかと思う。

で、ここで、対露の対立フロントを作って、それを以って欧州はロシアとの付き合い方を考えるべきという世論を作って、結果的にドイツにノードストリーム・プロジェクトを取り下げさせて、欧州はロシアを外して資源を入れる工夫をしようじゃないか、という声を前面に出して、その代わりに、特定の西欧だか中欧だか東欧だかが中心のプロジェクトを作ってエネルギーの供給ルートを支配したかった。

しかし、ドイツが全体としてこの資源ゴロみたいな話に乗ってないっぽかった。ずっと。
もちろん、ナブッコにも入ってはいるが、一貫してノースも捨ててない。

もしこのまま、ノースストリームが2012年あたりに完成したら、その時、NATOってどうなっているんだろう?


今年の4月のNATO会議は、またまた注目度が高いなぁ、これは。そういえばフランスの完全復帰の式典みたいなのがあるらしいけど、これって問題なくできるものなのか? 聞くところによるとサルコジは勿論乗り乗りだが、フランス国民的に完全に賛成というものでもないらしい。

で、2月にあったNATOの国防大臣会議で、米ゲーツさんが、アフガンに欧州も兵だせ、兵ってのを突っつかなかったことが話題になっていたが、これは、今もし、フランスにさらに兵を出せなんて話を振ったら、NATOとはなんぞや問題に火が付くことを恐れたからではないのか、など思ってみたりもする。フランスだけじゃなくてイギリスの国民レベルでのアフガンはもう負けました的態度も、NATO懐疑論に乗れる素地だし・・・。

いろいろ、大変な欧州だわ。

 北極海方面がちょっとかまびすしい

そんな中、

オバマ米大統領訪問前日にロシア爆撃機が領空に接近、カナダ
http://www.afpbb.com/article/politics/2576621/3865168
こんなニュースもあった。
カナダとロシアってとても関係なく見えるし、争点なんてなんにもないように見えると思う。が、実はこの2カ国は北極海をめぐって過去数年積極的に?口ゲンカしてるんだす。
で、カナダ領空に接近というけど、別にオタワまで入ってきたりしたわけでなく(これじゃ接近じゃない、内陸なので完全侵犯しかない)、北極海側のカナダ領空に接近した、と。つまり公空には違いないようだ。

どこかというと、こんなとこ。

Tuktoyaktuk


多分、このあたりの動きは、今年の5月に大陸棚延伸の申請なるものがあって、そこで北極海にフォーカスがあたるはずってな話の前哨戦なんだと思うだす。
北極海に関しては、ロシアの位置は沿岸各国(5カ国かな)で一番面している面積がでかい。
さらには、北極海ならどこでも凍るってもんでもなくてロシアのヨーロッパ側はそもそもノルウェー海流のおかげで凍らなくて、でも残りの太平洋側に向けての部分が凍っていたから半年は動けない地域が結構あったのに、折からの温暖化でその期間が2ヶ月ぐらいだかになった。これで去年大騒ぎしていた。今年も暖冬だったのではなかろうか? (日本はもう春でしょうが、カナダもロシアもまだとっぷり冬なので勝負の行方はまだわからないけど)


http://en.wikipedia.org/wiki/North_Pole
左側がカナダ側、右がロシア側。元々凍らない面積が広いだけでなく近年がらっと開いてる。


もうね、カナダのテレビとか、北極海が凍らなくなったおかげで今にもロシア人が攻めてくるといわんばかり、ってなトーンがちょっとあって面白い。だけど、カナダ&アメリカとロシアは昔から対面しているわけで、でもってその中では、双方のアクセス(つか、静かな攻撃?)で、いろいろダメージを与え合っているそうで、ということはロシア人だって怯えてるんじゃないかと考えたいところだが、そういいう話はついぞ聞いたことがないのは国民性の違いなんだろうか? 寒いところで有利と聞くと燃えるロシア人、みたいな(笑)。


というわけで、欧州フロント・北極海フロントでも、そして太平洋フロントでも、今年はロシア大注目の年。

でもって、北極海から見ると、欧州も太平洋も北米もとても近い。レンドリースの物資をソ連に移送したのは北極海経由が多いそうだし、ある意味勝手知ったる仲じゃんか、だし。ついでに、北極海を探索してルート作ったり、バルト海の下通してパイプライン作ろうとしたり、欧州人って仲良くしてたら壮大な無駄にしかならないことを真剣にやり続ける人たちなんだよなぁとかも思う。

 未開発地点には旗を立てる


北極がらみのカナダ・ロシアの喧嘩で最も面白かったのはこれか。

2007年にロシアが北極点探査をして、そこに旗を立てた。
これに対してカナダが抗議した。当時外務大臣だったピーター・マッケイが、
こんなちょこざいなことしやがって、だいたい旗を立てて何かが動くなんて思ったら大間違いだ、14世紀や15世紀じゃないんだ、と抗議。


それに対して、ロシアの当時も外務大臣だったセルゲイ・ラブロフが言う。

いや、マッケイはよく知ってるけど、そんなに怒るなんて彼らしくもない。私もね、旗を立てたってのには驚いてるんですけどね、ええ、そんなことで何かが動くなんてことはないんですよ。そう。でも、未開発地点とかに行ったら旗を立てるって、ほら、習慣的なものですよ、ええ。月に旗立てたりするでしょ、そういうやつです。


月の当てこすりもうまいけど、誰も開発してないところに行くと旗を立てる、って、昔アメリカ人たちが西へ西へと向かった時にそうしたと言われているまさにそれなわけで・・・。ピーター・マッケイの、15世紀云々は余計だったよなぁとか思う。だって、基本的に人類とはそうして未踏の地を我が物にし、他民族を支配したものだ、としよう。で、シベリア方面におけるロシア帝国時代というのもそんなだ。でも、アメリカ、カナダ、あるいはオーストラリアって、最も遅くまで、疑いもなく、まったく不思議も反省もなくそれをやっていた人々の代表選手なわけで・・・・。

旗を立てたけど、俺は所有権を主張しているわけじゃないよ、でも、旗を立てられると所有権を主張されているように思えるのは、あんたらがそうだからじゃないの、と言われてる気がもりもりする。
マッケイ、旗で飛びつくなんて、ひっかかったんじゃないかとさえ思うぐらい、ツボに嵌ってる。


当時も笑ったが、今でも笑えるなぁ。wikiにもしっかりのってる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Territorial_claims_in_the_Arctic

5月ぐらいになったら、また思い出して笑う人が世界中にいっぱいいそう。ピーター・マッケイがラブロフにおもちゃにされないことを祈る。このおじさんのキャラはかなり手ごわい。