ヨーロッパはどこまでか

タリバンが攻勢か アフガンで仏兵10人死亡
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20080820AT2M1903219082008.html

ニューデリー=長沢倫一郎】アフガニスタンで18日から19日にかけて、駐留フランス軍部隊がイスラム原理主義勢力タリバンの襲撃を受け、仏軍兵士10 人が死亡、21人が負傷した。ロイター通信によると、一度の戦闘で駐留外国軍が受けた被害としては2001年以降で最大。事態を重く見たサルコジ仏大統領は19日、直ちに現地に向かうと発表した。


一度に受けた被害として2001年以来最大だけでなく、フランスはつい最近増派したばかり、というのが今の大問題か。むごい言い方だけど。

春先に、被害の集中していたカナダ軍がNATO全体の支援がなさすぎるなら、来年で撤退すると言い出し、それに押されてフランスが兵士を増強したばかり。


で、これはつまり、関係諸国からすれば、ああ、フランスのパブリックオピニオンに対する挑戦だろうとまぁ誰でも思うわけで、それがあるからサルコジは現地に向かわねばならない、と。しかし、向かったところでどうにかなれるか、は問題。
Expert says Taliban attack aimed at public opinion, Harper not sure
http://canadianpress.google.com/article/ALeqM5gob_Pf4UBGXz998GpW5hMMy1M_Tw



アフガン戦全体は、伝えられるところを毎日なんとなく見ている限りでは、先月あたりに、大規模な攻勢をかけて、タリバンなぎ倒します作戦があって、それが終わったので、タリバンの汐は引いたみたいな感じだった。が、ここに来てまたこれ。安定化目標どころか、勝てない戦争になってきている。
(ま、それがアフガンじゃないか、と世界中の軍事評論家が言ってまわっている通りでもあるわけだけど)


★参考==========================
アフガニスタンの地図と各国軍当番図
Afghanistan Map
http://www.nato.int/multi/map-afghanistan.htm

アフガン・ミッションにおける各国の担当地区と人数が載っている地図。NATOのページ内。
地図は小さいので、下の文字列リンクDownload the map in high resolution をクリックして見ると大きい地図が表示される。
それでも文字が不鮮明に見えるけど、拡大ツールで触ってみて拡大するときれいに見えます。
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さて、一方で、NATOは折からの、グルジア騒動があり、それを巡ってロシアがどうしたこうしたでNATOは揺れている。
グルジアウクライナNATOに入れろというアメリカ+新ヨーロッパチームと、絶対ヤダ、の独仏伊+ベネルクス3で意見の調整が付かない。


別の言い方をすれば、アメリカさんチームとしては、グルジアが入ることが象徴的なように、この軍事同盟を、ユーロアジア全体に広げようというとしているんだと思う。米国としては、自分がイラク撤退の後にも影響力を残す仕組みが必要だとして焦っているというのがあるでしょう。

一方、旧欧州側では、それを阻止したい。その意味は、ロシアともめたくない、でもあるだろうし、中東地区内での混乱に、自分たちが自動参戦させられるのはイヤだ・・・でもあるし、まさか言わないだろうが、揉め事作ってるのあんたらやん、という反米意識も根強い。


ドイツの動きを見ると、グルジアウクライナ加盟問題(という名の拡大支持?)はあくまでヨーロッパで決める、という考えを堅持している模様で、今日現在ではまだ「落ちて」ない。


そもそも、NATOが、ソ連崩壊でターゲットを失った後に、なし崩し的に拡大していって、それをどこもちゃんと整理しなかったというのが今さらながら問題といえば問題なわけだが、今現在でいえば、
1)火種になる国をわかっていながら軍事同盟に入れるなんて間違ってる、というロジックは結構強い、
2)イラクでの戦争に頑強に反対した独仏にはそれ相応に反対の理由と実利はある、ことから、この調整は難しいのでは? 特に1)は一般に常識として訴えるものがあると思う。


そして、今日のフランス軍の犠牲で、アフガンはもう駄目ポ、論調が持ち上がる可能性も出てきたという意味ではさらに、(西側諸国にとっての)アフガン戦線は不調。従ってこの地域全体の流動化に拍車がかかる可能性も?という感じか。


だから、一応これはこれで「本戦」かもしれないにせよ、

NATO「対ロ関係、維持不可能」 ロシアは対立姿勢
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20080820AT2M1903919082008.html


実際に争っているのは、実は旧欧州VS米、ではなかろうかなど言ってみてもいい部分あるかも。で、新欧州は、まぁ、米の代理人になっちゃってるね。

 今日のパイプラインおさらい


連日の「ロシア復活」騒ぎの中で、ちょっと離れてみてるような具合が散見できるカナダ。
先進国の中であまり注目もされずに密かに資源国をやっているから、相応に、エネルギー資源をヨーロッパに供給しようというロシアの意図もわかるし、それを買わせないぞとばかりに騒ぎたてるアメリカ+新ヨーロッパ勢の動きも、まぁ、商売だからなぐらいの感じなのかもしれない。


で、今日のグローブ&メールも、またパイプラインの話をしている。

Russia crushes Europe's energy strategy
http://www.theglobeandmail.com/servlet/story/RTGAM.20080818.wrreguly18/CommentStory/International


ロシアがヨーロッパのエネルギー戦略をぶっこわしてる、とは書くものの、だからロシアをつまみ出せ系じゃなくて、石油ガスの流れの多様化おすすめです、と商売に入っている感じのするカナダのスタンスか。


欧州の石油ガス事情として、ロシア供給の割合が大きいし、大きくなる見込みさえあるので、北のポーランドベラルーシウクライナを通って真ん中の欧州に行くルートだけじゃまずい、というので、南から、今問題になっているグルジアを通ってのパイプラインという話になった。これがプランAと。


でも、アナリストの中にはこの中の、問題の、Nabucco プロジェクトとかもうだめポという人もいるんだよ、と。
ほんとか? 

Nabucco Pipeline
http://en.wikipedia.org/wiki/Nabucco_Pipeline
(このページの地図は、大きくて見やすい。観戦のお供にグーよ)


(ちなみに、このページによれば、ポーランドのガス企業はこのパイプラインへの接続を検討しているらしい。今の騒動にいろんなものを賭けているわけですね。)



じゃあどうするか。
南ですよ、南。地中海ですよ。これがプランB。
北アフリカリビアアルジェリア、まだまだ未開発ですよ、
この地域で各社が開発を考えてますが、その中で、ペトロ・カナダも行ってます、だそうだった。


北米(というか英語圏)の連日のロシア復活恐怖の大合唱の中で、なんだこの軽さは?と思ってしまうわけだが、そもそも、ペトロカナダは、でも南だけじゃなく、北でも精力的で、プーチン・ガス屋のガスプロムと共同でサンクトペテルスブルク近郊に液化天然ガスプラント設置を合意していた(2006年)。
http://www.petro-canada.ca/en/media/1886.aspx?id=584281


ガスプロムは、別にカナダだけじゃなくて、世界中のすんごい広い地域で鋭意営業中。それをいまさらロシアの戦略だと騒いでみたところで何になるの、と考える人がいても不思議はない。ロシアの会社だろうがなんだろうが、お互い尊重しあって付き合って、互いにちゃんとお金払えばそれでいいでしょ、と(上の記事の下のカナダ人コメントにそうあった。)


まぁ、それがイヤだという人もいるだろうが、そんなこといってもどこかのエネルギーに頼らないと生きていけない国は一杯あるわけで、そこのガス屋、そこの油屋から買うなと別の誰かに言われるのは大きなお世話と言う人がいたって不思議はない。


そうはいっても、しかし、ふと、いやいいんだけど、
来年にはロシアの天然ガスケベック州で売られるらしいという話もあって、これって、タイミングが悪ければ騒ぎになるんだろうか?
http://goliath.ecnext.com/coms2/gi_0199-2329255/Petro-Canada-Gazprom-Plan-First.html


しかし、ちなみに、このフェーズではカナダは天然ガスを輸入しているが、別の場面では、カナダはアメリカにとっての最大のエネルギー輸入国なので、プーチンガス屋がヨーロッパ市場に対しているのと、(規模は違うが)同じ構図にはある。止めるよ、とは言わないと思うが。

訴求ポイントが不備な気がする


ロシア復活恐怖騒ぎから目を離してちょっと考えてみるに、グルジア方面でいろいろ言ってるけど、あのあたりの商売がバッティングした結果としての騒動という一面は確かにある。覇権、地域の安全に対する責任(同義か)等々まぁあるけど。

ロシア崩壊後、よーし、俺らで全部いただきだとばかりに崩壊から10数年、米英系企業と、旧ソ連下だった各国、各地域のリーダーなる人々が、そのプロジェクトに突っ込んでいった。この間に、旧欧州系の企業も負けたり、外されたりとかまぁいろいろバトルがあったようだ。

しかし、復活しちゃったプーチンが気がついて、次々に手を打ち出して、部分的には先行していた米系プロジェクトの独占が疑わしくなってきた、少なくとも競合すると儲けが少ない(場合によってはプーチンガス屋は儲け度外視で来る)、どうしよう、というのが今と言って別に悪くないと思う。


で、ソ連にエネルギーを握られるのは怖くないのか、という大合唱が来て、折りよく、ほうらね怖いだろと言える事態が発生した。考え直そうよ、といわれれば、多分先進国民は一応そうだね、となるだろう。そして、旧欧州系は、ロシアに屈するのかと訴求されれば、折れるかもしれない。


しかし、この訴求は、カスピ海沿岸地域のみならず、インドから湾岸、北アフリカといった問題の場所−私を含めた先進国民がターゲットとして語ってしまいがちな地域の人々には、全然訴えるものがないよな、など思う。どっちでも同じだろう、と。


でもって、そこをロシアにさらわれたのがthe Westの過去の歴史だと思うんだが、また同じことをしているのか、など思ってみたりもする。
従って、私の目には、内輪で自爆しているとしか思えないの。

 ほんとの感想


アフガンの戦争を過去数年以上日常的に様子を語る記事に接してきて思うことはただひとつ。もう止めて。少なくとも一回止めて。兵隊さんもそこに入っていく通訳の人とか現地の案内の人、そこに一緒にくっついていったらしいアフガンの男の子、女の子。
そして、タリバンの兵士なんだか民兵なんだか、おにいさんなのかおじさんなのか、それらすべての人々。

それらの人々に私は何をしてるんだろうーとかぼんやり思う。私じゃないよ、とは言えない。


頭の中では、これは西欧、NATOにとって、そして不機嫌な概念としての「the West」(日本も入ってる)にとっても、アフガンの人にとっても必ず希望ある将来が待っている話なのだとは一応思う。考えられるし、信じられるものもある。


でも、そこまでの山は高いよ。その山を登るためにどのぐらい人が死ぬの?と考えると、一旦何か手を変えられないの、これ、と毎日思う。


基本的には安定したアフガンをアフガンの人々に渡し、現在も同時並行的に続けられている民生支援が活かされるようになる「はず」。その目標は私は支持するし、アフガンの少なからぬ人々にも理解されているだろうと信じる。でも、どこまで行けば?と迷ってしまう。そして、兵隊さんにそういう迷いがなければいいな、と思う。迷ったら多分一歩死の方へと歩み出してしまうから。


この体験によって私は、人々がなぜ戦争時代に、誰に進められるわけでなくとも、「大本営」的に、大丈夫、勝ってると言いたがるのかがわかった気がする。自分の愛する人に迷って欲しくないからなんだよ。