今月のジェフと変化という名の王朝

オバマ氏、「クリントン国務長官」発表 米新政権の布陣固まる
http://www.nikkei.co.jp/news/main/im20081201AS2N0100K01122008.html


なんというか、何が新しいんだか、変化なんだかわからん風になってきたわけで、なんというかかんとうか・・・、オバマというのは、国民的関心を惹きつけて、大きなことをやるためのある種のバナーというかキャッチーなイメージを作るためのお人形ということなんだろうね、と、今さらながらのことを感じる今日この頃。ただ、結局のところ、実際の政権内の人選が、まんま民主党クリントン王朝派みたいな人ばっかりじゃん、だったりするところを見ると、その大きな変化というのもできましぇーんなのかもしれないなど思ってみたりもする。つまるところ、看板は変えたけど、まぁ、やることは、国内は労組とだましだまし、なんとか時間を稼ぎつつ、本業的には、外で為替レートをいじったり、外国に無理な注文を出す(同じことだが)等々の政策で乗り切るってやつですか、みたいな。

あるいは、新しい皮袋に古いワインを詰めて、新しいですと売りまくるという、なんというか、詐欺的なことが続くこの国らしいやり方か。


なんつーか、他にやりようがないといわれりゃそれまでだが、ニクソン、プラザの次が来るという情勢でガチ、日本ピンチ!でしょうか、また。


でもって、しかしながら、これまで、そういうことを言い続けていたのは基本的に当事者であった日本人で、そのほかの人でその話をアメリカの戦略として言うというのはあまりなかったように思う(詳しい当事者、専門家以外でという意味だが)。

しかし、ここに来て、借金して、その借金を国債にして外国勢に買ってもらって、その上で為替のレートを落とす、うしし、みたいな構図があまりにもあからさまになってきたっぽく、これは新しいかなと思った。


今月のジェフはまさにそれ。
ジェフとは、カナダCIBCのチーフエコノミスト&ストラテジスト、ジェフ・ルービン氏のことで、主に、あくなき原油高強気論者として知られている。

The Printing Press
http://research.cibcwm.com/economic_public/download/snov08.pdf


タイトルが「印刷機」。これって、つまり、ドルを刷るってことだよね。
で、その中で、米国財務省証券を買ってアメリカにファイナンスした貸し手、たとえば中国人民銀行が、買った時より全然購買力のない証券を持つわけだすね、と書いて説明していた。


そういえば、この構図は、イギリスの金融史の歴史家ニーアル・ファーガソンも、新著「The Ascent of Money: A Financial History of the World. London」の説明っぽいインタビューである種晴れ晴れと語っていた。そして、問題は、外国人たちが、もうたくさんだ、enough is enoughとして財務省証券を買わなくなった時だ。その時私たちは本当に酷いファイナンシャル・クライシスを体験することになるだろう、と続けていた。そうならないよう願いましょ、と言っていたが、そうならないよう、政権当局者等々は激しく運動しているんだろうなぁとしか思えない。願ってかなうことなのか、おい、でもあるっす。

The Ascent of Money: A Financial History of the World

The Ascent of Money: A Financial History of the World

(この本、もうちょっとで読了で最後まで行ってないんだけど、とても面白い。The Economistの書評では、誰がターゲットなんだ、その本、専門性が少なく、さりとて簡単とは言えないってんでと多少批判的に書かれていたと記憶するけど、多分、経済史、金融史の専門家とまではいかないが、経済、金融、経営にかかわる人たちに大きなピクチャを持たせるという意味では教科書のようにいいんでないの、と思った。

私は、ただの、読書好きのおばさんなので読者ターゲットと関係ないけど、ファーガソン氏はイギリス人だがアメリカの教授でもあるから、なおさら、長い見取りを欠いた優秀な生徒と遭遇している可能性は高いのではないのか、なんても思った。この人の全体としての業務は、イギリスからのアメリカの次世代担当者の教育エージェントなんじゃないかと最近思う。)


そういうわけで、あちこちでこの構図を見せられるたび思うわけだが、もとからイギリス人、カナダ人はアメ人に比べると、また為替動かすんだぜ、アメリカは、というのを比較的簡単に発言していたが、ここに来てこれというのは、これってつまり、あきれているか、意図的に構図の説明を垂れ流しているような気さえする。信用失墜というのは、外部者によるそれよりも内部者によるそれの方がさらに深刻ではなかろうか。


で、当然に気がつくのは、これは対日本でさんざんやってきたことと構図は同じなんだとは誰も言わないこと(笑)。笑いごとじゃないが、この理由を日本の立場じゃなしに彼らからしたらなぜと考えてみるに、


(1)一連托生の日本は米にたてつかないと内部化されている、がはは!
(2)日本に懸念が芽生えたらもうお終い。だから言えない。言霊はあるのよ、ふつーに。


もし(2)なら、麻生さんが、ある意味空気を読めないかのうように、米ドル機軸体制を守るんだみたいなことを言ったのは、ま、対米従属と解く人もいるだろうが、ドル安定堅持派にとってこの意味はとても大きかったんじゃないかと思う。ま、ナイーブでもあるが。


(3)もう少し自虐的には、チャイナを持ちあげてチャイナを仲間にすれば日本も付いてくる確率は高いが、日本を持ち上げて日本を仲間にしてもチャイナが付いてくるという因果関係は特にみえない、という現実からのチョイス。最終的には両方にサポートに回ってほしいから。

(4)もうすっかり、チャイナのハンズに落ちているので、どれだけチャイナが大事かを言う以外にはもはや手はない。


なんとなく、イギリス勢が、日本は過去をどうしたこうしたとか言い出している気配があるので、こっちに動いている可能性は結構あるかも。かなり心配。
春先に出ていたビル・エモット本もこれ系へのちょっとした忠告含みと考えるとわかりやすいのかもしれない。ああ、もう、みたいな。


こんぐらいか。


どっちにしても、日本が取れる道は4つか。
(a) チャイナと一緒に米ドル体制を崩壊させないよう努力する(50年後はわからんにしても)
(b) チャイナと一緒に米ドル体制にそっぽを向く
(c) チャイナと英米リーグが仲良しになって、日本は独自路線化する(これはもう60年前にやられた)
(d) チャイナを没落、孤立させて、日本は英米リーグにとどまる(明石元二郎はいずこ)


究極的にチャイナを信用できない日本からすれば、取りたい道は(d)のみなんだろうが、一番できそうにない。それは単体の日中の問題ではなく、イギリスをはじめとした欧米軍が100年この方チャイナに望みをかけ続けてるからという理由から。

でまぁ、60年前は、スターリンジューコフが象徴するような、えぐい戦いの果てに、今の体制があって、そ知らぬ顔で、私たち民主主義陣営は強かったみたいなことを言うというのが英→米連続覇権の推移なんだから、限りなく独裁国家的なチャイナが大きく貢献することによってこの英→米連続覇権が守られたとしても不思議はないよね。


その意味から(b)もないと思う。ロシア勢がこれを望んでいるように見えるが、日本が100%コミットするのは無理っしょ。もとより日本は(c)で活路が見出せる国でもない。

ロシアみたいに最終的にしばらく自活できちゃう資源と奇妙なまでの自尊心と表裏の貧乏耐性のある国民性と、陸続きであることとと周辺民族の多様性、複雑性、やららめったらハシッコイ人々の集団が散見するといった事情のために何をやっても結局のところいくらでも抜け道がある、待てる、とかいう国ならともかく、日本は周りは海で陸続きの隣人いないし、貧乏耐性はどこよりもあるが、奇妙なまでの律儀さで時に極端に律を求めに入る国民性から考えれば、他国との公正な交易が可能である状況が結局最も望ましい(複雑さ、多様さに基づく曖昧、大局OKのへんなリーダーシップはあまりない)と思うとしか言えない。


ロシアとの対比で面白いおかしく語るなら、日本って、毎日しっかり働かないと食っていけないサラリーマンの国で、ロシアは、人生かけて好きなことを言っているようで、実はおじいさんか曾おじいさんの時代から、最近古くなったとはいえ頑丈な石組みのアパートを所有している、文学好きな中年のおばさんの国、とか思ってたら間違いないんじゃないと思う。石油収入ってannuity(年金)に似てると思う。だからイギリス人が歴史的に悔しくて仕方がないのかもなぁとかも思う。


で、結局、日本にとってのチョイスは、退屈で、ナイーブに考えれば屈辱的でもあるが、当面(a)しかなく、問題はこの程度問題となるんでしょう。で、しかしながら、覇権国家に動揺が見える場合には一応の覚悟は必要なので、どうしようもなくなる前に退却できるようどこかで見切りを付けられる可能性やら、ある種の保険をかけられるか否か等々のシミュレーションをしっつ、退却戦線の迅速な構築を課題とする、ってなところだろうか。取った陣地を離せなくてマンシュタインを生かせなかったドイツ軍を思い出そう。って、最近これ系の話を友達としたばっかりなので、いきおいそんなんばっかりだわ、今日の頭は。


あと、イギリス勢とコモンウェルスを主体とした情報戦で日本がディールのネタになるような場合(チャイナに買ってもらう必要性から見返りを与える必要が生じ、西欧諸国が日本をダシに使う場合)、どんな事情であれ味方になってくれる可能性のある外国人ってのは、実のところ、一部のアメリカ人である可能性がその他の人々よりも高い、という点を確認しておく必要はあるような気がする。(もちろん、アメリカだけじゃなくてアジアとかも相応にいるが動かす、または動かないでもらう必要のある最大手はここではないのか?など想像する。)


今後難しくなるけど、現在持っているグッド・コネクションは注意して注意して保存すべきだと思う。間違っても、クリントンらの民主党憎し→米国憎し、で米国コネクションを壊さないようにしないとじゃないかなど思う。政権担当者とか政府高官のことを言ってるのじゃなくて、最終的には米の(金融を除く?)ビジネス・ピーポーと、買ってくれる大事なお客さんの信頼関係がもっとも持続的に大事だと思う。

みなさん、あなたの肩にかかってますよ!など申し上げたい。


大変な世の中よね。

[補足]
もひとつあった。チャイニーズとの信頼関係醸成ってのが結局最も大事には違いないんだろう。同時に食われないようにするにはどうしたらいいのかって、なぁ・・・。難しい。個人主義的といわれるけど実は上からの命令とか小さいコミュニティ(親族を含む)内での評判、ポジションがもっとも大事という点で、アメさんやら日本人やら、驚かれる人もいるかもしれないけどロシア人やらが語る個人主義とは似ていない価値観とその活用法で生きている人なんだろうな、と拝察しているので、なかなか難しいが、でもなぁ、これも場所を選べないのでなんとかやってくしない。