安定かどん詰まりか:カナダの総選挙

退屈になる以外にない、他の結果が出そうにもないのに何でわざわざここで選挙やってんのカナダ人、など思っていたところに、先々週あたりから保守党支持率急落かの知らせでちょっとワクワクしていたのだったが、結果としてはまったく問題なく退屈な選挙になっていた。


カナダ総選挙、与党が議席数伸ばし政権維持
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20081016-OYT1T00024.htm

今選挙は、2006年の総選挙で政権交代を実現しながら、少数与党として苦しい政治運営を強いられてきたハーパー首相が、単独過半数獲得を狙い、前倒しで実施したもの。ハーパー首相は勝利したものの、単独過半数に届かなかったことから、再び苦しい局面を迎える可能性が高い。


過半数に届いていないので確かにまた議会運営が苦しいことになるだろうとは言えるが、でも、前より議席を伸ばし、ほぼ2回同じような結果になっている(マイノリティだが一番強いという意味で)という結果を示したことによって、保守党は、むしろ、デファクトのマジョリティ政権になってきたかなという気がしないでもない。


で、この選挙の意味を一言でいうのなら、保守党が着実に全国党になったことを確認するための選挙だった、という感じか。その意味で保守党としてはやって良かったと言える。が、多くのカナダ人は、こんな選挙をなぜやった、お金がもったいないと叫んでいる模様。


現在の保守党は、2000年の総選挙までは存在していなくて、当時はカナディアン・アライアンスと急進保守党という2党があった。その前の歴史はともかく、1990年代後半からのリベラルの時代にあっては保守とは西部カナダの代表政党のような感じになっていた。2000年の総選挙で国内全体の3分の1の議席を左右するオンタリオ州の保守議席が2つしかなかったというのがその象徴。この時自由党オンタリオ議席は100.

この壊滅的な保守陣営を立て直すために保守側のカナディアン・アライアンスと(今で言うネオコン)と、急進保守党(名前はそうだがこの時点ではむしろ穏健側の保守だった)が2003年に合併して、2004年の総選挙から現在の保守党が登場してきた。


以下、2000、2004、2006と今回の選挙結果。


★今回−2008年
保守党 143
自由党   76
ブロック・ケベコワ  50
NDP   37
その他  2
合計 308


2006年
保守党 124
自由党   103
ブロック・ケベコワ  51
NDP   29
その他  1
合計 308


2004年
自由党   135
保守党 99
ブロック・ケベコワ  54
NDP   19
その他   1
合計 308


2000年
自由党   172
カナディアンアライアンス 66
ブロック・ケベコワ  38
NDP   13
急進保守党 12
その他   
合計 301



で、カナダの選挙の場合、この内、

オンタリオ 106議席
ケベック 75議席


という大きな州2つが、実に58%の議席を占めるという点から、全国党として統治しようとする政党はどんな政党であってもここを取らないことには話しにならない。ちなみにトロント、オタワのあるのがオンタリオ州モントリオールのあるのがケベック州

そういうわけでこの2州における、保守、自由(以下リベラルと呼ぶ。自由と書くと違和感がありすぎる)の戦歴を追うと:


オンタリオにおける保守党の戦歴
2*(2000)-->24(2004)-->40(2006)-->51議席(2008)
   *1224098841*2000分はアライアンスと急進保守の合計

オンタリオにおける自由党の戦歴
100(2000)-->75(2004)-->54(2006)→38議席(2008)


ケベックにおける保守党の戦歴
1*(2000)-->0(2004)-->10(2006)→10議席(2008)
   *1224098841*2000分はアライアンスと急進保守の合計

ケベックにおける自由党の戦歴
36(2000)-->21(2004)-->13(2006)→13議席(2008)


と、オンタリオ州での保守によるリベラル崩しは鋭意継続中で、まだ行けそうな気はするけど、かなり限界に近づいているのではないのかと見える。8年間で議席数を40%にまで減らしているわけで、どうあれ変化しない基礎票みたいなところに近づいていないか?みたいな気がする。コツンって聞こえたよ、みたいな。

一方ケベックは、前回と同じであることを見ても、ここも双方限界か。


しかし、同じ限界でも、ケベックは、ブロック・ケベコワというケベック分離派の総本山が多数を占めている。この8年の間に75議席中の過半数どころか50議席を占めるまでになった。しかし、ここはいつもそうだったわけではなくて、リベラルが強い時にはここまで強くはなかったことを考えても、崩せる可能性はオンタリオの比では高いであろうとみなされている。
(以前は、連邦主義者=リベラルvsケベック分離の戦いになるから、さすがに一方には倒れなかった。現在のバトルラインはケベコワ・保守・リベラルの三つ巴になっているので錯綜して、漁夫の利でケベコワが大勝している)


というわけで、リベラルもそうだったけど、保守も、どうにかしてケベックを崩してここで議席を取りたいと考えているのだがなかなか難しい。
でもって、今回ケベコワの党首は、折からの、自由党ハーパー政権にマジョリティを取らせるな、というリベラルのテーマに呼応して踏ん張った(価値観をテーマにして、保守を敵に仕立てて、フランス系万歳で勝利、と)。


保守党がマジョリティが取れなかった事態に対して最大の貢献をしているのは実はこの党だとも言えるかもしれない(今後の分析を見てみないとなんともいえないが)。


総合してみるとハーパー政権または保守党は、もしかしたらこのあたりが最高点でこれ以上はそうそう伸ばせない、伸ばすのが難しいと見ることもできるかもしれない(今後の識者の分析を待たないとなんとも言えないが、ま、私のメモ)。


もちろん、そういう組み合わせの妙が実際には一番効くんだろうとは思うが、本質的な問題点というのももちろんある。それは2000年を頂点として凋落傾向に歯止めがかからないリベラルは今後どうなるのか、という問題。

今回の連続敗退によって、この点をリベラルがようやく思い腰をあげていって、なんとかしていく可能性が高まった、とも一応言えるんだろうと思う。