不安定直撃型政治の恐怖

涼しいを通り越して寒くなってきた。もう10月も真ん中だもの仕方がないけど毎年この時期になると、もうクリスマスの話をする人があらわれ私を驚かせてくれる。もうお正月の話をするかぁ?

例年の私の説では、この時期から冬至までは人々は多少落ち着きを失う。
暗くなって寒くなっていくというのは、人間にとって本質的に恐怖に違いない。

で、今年はそれに加えて、金融危機の騒ぎに大統領選挙、カナダの総選挙となんだか毎日ニュースを見てしまって、妙に忙しい。何もする時間がないという感じさえする。選挙はまぁ飛ばせても、でもなあ、この金融危機はそうそう滅多にめぐり合わないだろう(そう願いたい)と思うので、毎日勉強しちゃう。


大統領選挙といえば、もう、私はこれを早く終わりにしてほしい。
なぜって、マケインがかわいそうに思えて仕方がないから。

かわいそうったって、自分で選んで自分で方針作ってやってんだから、そらまぁ自分のせいではあるし、他人からかわいそうがられたいおじいさんでもないだろうが、そうはいっても、やっぱりこの、気の毒だ。


いや、普通の局面、たとえば、経済政策をあまり得意にしていないようだというのは氏の長い議員時代を通じて、たいていの人がかなりよくわかっているのに、自分はこの混乱を収拾できるみたいなことを言い出すとか、あるいはいまた、どういう戦略を想定しているのかがよく見えないのにやたらにロシアを敵であると強調し続けることとか、よしんばロシアは敵だ、はいいとしても、だったら傀儡政権の始末ぐらいちゃんとさせておきなよ、なのに何かしまりが悪いように見えるとかとか、については、そりゃマケイン氏の責任範囲内でそれが評価されなかったとしても、それは仕方がないですね、とあっさり言える。


しかし、選挙に勝つための手段としての選挙キャンペーンについては、もっと他にやりようがなかったのかと見ていて気の毒になってきた。


オバマ氏をテロリストと中傷攻撃 マケイン氏支持者
http://www.47news.jp/CN/200810/CN2008101101000334.html

オバマ氏は立派な人」マケイン氏が擁護、支持者はブーイング
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20081011-OYT1T00710.htm

ある女性が「オバマなんて信用しない。アラブ(のテロリスト)でしょう」と批判すると、マケイン氏は首を激しく横に振り、「いいえ、奥さん、彼は立派な家庭人、国民です。たまたま意見の相違があるだけです」と質問をさえぎった。


これは動画がテレビでも配信されている。
ABCのサイトにあったもの。
http://abcnews.go.com/video/playerIndex?id=6008463


読売の記事はちょっとまとめすぎなので事態を平たく書くと、このビデオはタウンミーティングの様子を写したもの。エピソードが2つ入っていて、まず最初、肥えたおにいちゃんが出てくる。僕と妻には子供が生まれるんだけどさ、と切り出し、テロリストと共犯しているような人が大統領になる国で自分の子供を育てたくない、と言う。マケイン氏、マイクを取り戻し、私は言っておかなければならないことがあるよ、自分とオバマ氏は根本的に意見の違いがあるけど、オバマはちゃんとした男で大統領になったからって怖がることはないんだよ、ときっぱり言う。

次のシーンでは、赤い服きた中年のご婦人が出てきて、私は、オバマを信用できません、彼は・・・彼は・・・と言いよどみ、マケイン氏が察してマイクを彼女から取って、No, No, 彼(オバマ)はちゃんとした家庭人、シティズンですよ、ときっぱり言う。


もうね、もう、凍りつくような瞬間じゃないでしょうか、これは。
私はこのビデオを見て、ああ、マケインって育ちがいいんだよなぁとしみじみ思い返したし、今にはじまったことではなく、幾多の論争に見られる通り、自分に不利な状況を引き受ける勇気のある人であることに間違いはない。


しかし、この度の事態については見当を誤っていたのではないのか。
マケインはもしかしたら、ここまでとは思っていなかったのじゃないのかなど思うのだった。


彼にとってのアメリカが偉大すぎて、普通に見るアメリカには相応か相応以上にやばい部分があるということを彼は認められなかったのかもしれない。マイ・フェロー・シティズン my fellow citizens of the Unites States of America を信じてる、というその言葉に嘘はないのだしても、マインドが弱い人を誤解、妄想に走らせることの危険性を認識できなかったのかもしれない。


ペイリンを使って、保守派にアピールするといえば聞こえはいいけど、筋のいい保守派ならペイリンじゃないわけで、ペイリンを持っていったということは、かなり、相当に、やばい橋を渡っていると、下々の私たちはそう思うわけだ。あの話し方聞いたらわかるでしょ、みたいな雑駁な感じの方が当たるということもある。

特殊な除草剤をまいたようなことになったらどうするの、マケイン陣営?という感じ。

つまり、それでもペイリンは勝っていた、として譲らない人はいるが、それは、

1)誰が出てきてもそう言う、絶対民主党に入れたくない共和党員か、

2)こういう人が好き、

という人ぐらいしかいないだろうという戦前から予想されていたその予想を、がっちり固めてしまって、それ以外の人が寄り付けない、1)&2)以外の人、すなわち無党派の人たちとか、共和党員の中でも、ちょっと系統が違う人には免疫がないので、寄り付けません、ノックアウトされました、枯れてしまいました、う〜ん、みたいな・・・。

http://d.hatena.ne.jp/Soreda/20081003

と、この前の前のエントリーで自分で書いたとおりになっている気がして、非常にイヤ。


共和党内からもマケイン/ペイリンのキャンペーンについて、どうすんだこの始末、的に異論、反論が出ているようだが、もう、どうしようもないでしょう。


他の共和党大物が寄って来てないようにも見えるのが現状を示しているのか。
(そもそもブッシュ他の現政権を象徴する人たちは評判が悪すぎて応援にならないわけだし)


そうはいっても、共和党としては、抜本対策は無理としても、どうにかして大敗の危機を回避しないと議会の選挙も大負けになってしまう。

このペイリン由来のダメージをコントロールするために、誰か別の人を応援に立たせて収拾したらどうだろう。
真面目に思うわけだが、バージニアとか、いや、それどころじゃない、テキサスの票の開き方にさえ影響が見えたら共和党、ほんとにピンチではないのか?

テキサスって都市部もいっぱいあるわけで、その人たちの現在の感じは、私が思うに、ペイリン共鳴型、恐怖・妄想系ではないですよ。あとは、豊かに堂々とリパブリカン、っていうのが一つの誇りであるとしたら、それもこのペイリン効果とはそぐわない。結果としてここにまで揺らぎが来たらどうするの、と。
(でも、確かマケインは共和党金城湯池だということでテキサスではほとんどキャンペーンをしていないそうなのだが、これが意外に良い効果を持つのかもしれないが・・。)


では誰を出してくるか。ハッカビーあたりがいいのじゃないのかなと勝手に思う。ってか、私は全体としてはロムニーファンだが、誰の話が好きかといえばこの人が好き。


基本的には宗教右派だけど、感情にしこりを残すようなネガティブには訴えないプロの政治家(というより、プロの演説家というぐらいお話がうまい)だから、こういう人に前に出てもらうのがいいのではないのか。どうせもう、都市部の、共和党員の半分ぐらいはターゲットにならないだろうから任意投票にして、多少なりともちゃんとした、本流の人々を取りこぼさないようにすることが求められていると思う。


マケインのきれいになでつけられた白髪頭とか、紺のブレザーからのぞく形のいいシャツの襟とかを見ると、やっぱり坊ちゃんなんだよなぁ、それでいったいなんでこんなに性質の悪いレッドネックの差別主義者というか、頭の中が妄想いっぱいのおっさん、おばさんを相手にしないとならないのよ、ではあるわけで、なんだか90歳を超えてお元気だというお母さんがかわいそうになってきた。
いやしかし、それがマケインが選んだ道ではあるんだけど。ああ。

いやしかし、いやしかし、私は、いわゆるレッドネック全体が悪い人みたいには全然思ってなくて、基本的にすれてない、良い人がいっぱいいる層というか集団だと考えているし、アメリカに住んでいる友達でレッドネック・アレルギーみたいな人にも、そういうことじゃなくてさ、と過去5年ぐらい説得していたりもしてきた。

でも、理性を重視しない、ルサンチマンっぽい傾向が濃い人は確かに群れをなしているわけで、今回はペイリンまたはその周辺が見事にそういう層を釣り上げてきている。釣ろうとしてペイリンだったわけだし。

何度考えても、ペイリンの、オバマはテロリストの友達だ発言はアホだし、私はこの女性が恐ろしい。
http://jp.youtube.com/watch?v=gi3oP74kMjA&feature=related


この部分だけを取っても、アメリカ発のこの度の金融危機の後の世界というのは、結構未確定な感じはあるんだよなぁとしみじみ思う。そして、大事なものを失っていったりしたらどうするんだろう、などとも思うわ、アメリカ。