カナダの総選挙がおもしろくなってきたかも

今日も今日とてウォールストリートは大変そうだ。
でもって、ブッシュ氏がどこかで演説していたが、その顔が本当に困っていた。
演説の最後に、当局者なら普通に言いそうな、それでも私はこの国の強さを信じてるとかなんとかそういうことを言ったのだが、なにか、そのあまりにも普通のセリフにさえ本当に希望を託している風に見えて、おお、と思った。本人もぐっと来ているような感じに見えた(もちろん、単純に別の用事があるので気が急いていたとかそんな事情で妙に複雑な表情になった、とかいう可能性だってあるわけだが)。


ともあれ、アメリカもヨーロッパもめちゃくちゃになっている今日この頃だが、経済が不安定になれば政治にも波及するのは理の当然。折りしも、アメリカは大統領選挙があり、そしてカナダも現在選挙戦真っ最中。


とはいえ、アメリカの大統領選挙はスケジュール通りだが、カナダの国政選挙は与党保守党が任期満了を待たずに選挙に打って出たものなので、当然本人たちはここから勝てると思ったからそうしたものであろうと思う。2年半前の選挙では勝ったもののマジョリティを取れていないので、マイノリティ政権として対応してきた。それをあわよくば過半数を制して、と思ったであろう・・・。


で、私としては負ける要素がまったく見えないと思っていたので非常に退屈に思っていた。
多分、オバマが当選したりすると、野党リベラル側に勢いが付いたら困るので、その前に終わりたいという考えがあったのだろうとも、まぁ誰でもそんなことを考えていた。


基本線はとりあえずまだ保守党優位と言っていいだろうと思う。
投票日は10月14日。来週だ。


さてしかし、過去1週間、なんか様子がおかしい気がしてきたので今日まとめて見た。
なにかこの、リベラル勢が総力挙げて、ハーパー保守党政権のマジョリティ阻止に走っているようだ。

この調査結果はすごい。


Globe and Mail 10/07
http://www.theglobeandmail.com/national/politics/


選挙運動期間開始時に41%あった保守党(青線)の支持率が、10月7日現在31%。
といっても、リベラル(赤の線)自体は伸びていない。25%前後のままの低位安定。しかしその代わりに第3党、第4党が支持率を伸ばしてきてる。
3位のNDPは12〜15%ぐらいの手堅い左派党だったのだがそこが20の大台ってかなり驚く。


保守党政権奪取以前は、保守とリベラルが、それぞれ35%アルファでいい勝負になって、その時々でその上に上積みして勝つという形だったと言っていいと思うんだが、その後、保守は特に伸びもしないが、リベラルが自滅してきて、第3党、第4党あたりに支持がばらけてきた。つまり、このままではリベラルは近い将来第一党にはなれないだろう、戦略的に負けたよな、といった感じになっている。


これ自体は変わっていない。しかし、ここに来て、とにかく、ハーパー保守党政権のマジョリティだけはなんとしても阻止、という動きが強まった・・・・。


マーガレット・アトウッド(カナダで最も著名な作家)など、そのものズバリのことを言っている。


Anything but a Harper majority
http://www.theglobeandmail.com/servlet/story/RTGAM.20081006.WAtwood07_PTR/BNStory/politics

ハーパーのマジョリティ政権以外ならなんでもいいです、とまで言い出している。このグローブ&メール紙への投稿記事によれば、私はそのためには、ジル・ジュセッペ(というケベックのためのケベックによる政治家で、カナダからのケベック独立を言う党の党首)にさえ投票するかもしれない、とまで言っている。そういう大事な選挙だという姿勢の模様。



で、過半数を取らせてはいけない、という運動は非常に控え目に見える。
リベラルが勝てないってことは認めてるんだな、だし。


しかしながらこれは大統領選挙ではなくて、比例なしの純粋、または完全小選挙区制で行われる選挙だ。
ということは、各地の各選挙区で、保守党以外ならなんでも良しという選択が強まったら・・・・。がらがらぽん、になっちゃう可能性もあるのじゃじゃいのか?


いや、まだそこまでではないと私は見ているのだが、カナダは、小選挙区制の悪夢とでもいうべき一事件のあったところなので、なんか、ワクワク?


1993年に与党だった進歩保守党は、169議席を2議席に減らして、カナダの政治史初めて、現職の首相も負けてるし、もう壊滅的という語も気の毒なほどの負け方をし、その後幾多の保守党建て直し時代、その反対にリベラル全盛の時代となった。与党が2議席ですよ、2議席


これがその選挙。
http://en.wikipedia.org/wiki/Canadian_federal_election,_1993


その時との差異はある。1993年は80年代後半の不況の後で、この経済をどうしてくれるんだ、と失政を問うということだったようだが、今回はまだそこまで悪いとはいえないし、保守党はまだ一般的には失政をしているわけではないと、私は思う。

が、共通点もある。80年代後半の、ブライアン・マルルーニー時代に保守党が大勝して、その失政の付けが1993年の大敗だ、つまり、選挙民としてはハーパーを放置するとあの時代が来る、という筋に見える、と。


で、ブライアン・マルルーニはサッチャー時代の人で、現在のハーパーはブッシュ時代の人。つまりどちらもいわゆる新自由主義万歳の政権。


後だしならぬ先だしでいらぬ心配をしてみたくなったりするのは、そういえば、日本の人でカナダものを報告するビジネス系のレポートとか見ていて、ちょっと、あれと思ったことがあった。つまり、社会民主的傾向の党は世界的にもうはやんないから、リベラルも支持を失っているんだ、やっぱり保守ですよ、自由主義ですよ、従ってハーパー強し、みたいなことを考えているらしい、と。

しかし、リベラル・デモクラティック系の価値というのは好むと好まざるとに関わらずカナダにとっては本流だし、また、組織としても、連邦の政治に関していえばリベラルこそ強くて、保守党はむしろ挑戦者的で、だからこそ解体、合併、新出発している。が、今見ると、リベラルが弱くて、保守党元気そうなので、その経緯をニグレクトしがちなんではないのか、と思った。

オンタリオに関していえば、州の保守党(Ontario PC Party)は自民党が保守であるように保守的、エスタブリッシュ的な人々につながった、かつては、まったく当然にここを治める党だとさえ言われていた党で、その残滓のある党だと思うが、ハーパー政権の連邦の保守党は、「保守」という言葉とはかなり関係ない。オンタリオケベックといった東部諸州からすれば、西から来たネオコンという扱いで、ただ保守党という暖簾を買った、みたいな感じかも。


そういえばそういえばで、つらつら思い出すに、「これはカナダの将来にとって大事な選挙なんです」とか、ハーパーをこのままにはできないとか、なんか力を込めて言っている人がいるなぁとも思ってたのだった。私は迂闊だったわ、となるのか、それともハーパー氏現時点での失点少なしでこのまま行くのか・・・。いずれにしても、まったく退屈な選挙だと思っていたのに、なんか俄然面白くなってきて私はうれしい。