討論に勝てばいいってものでもないが

なんだか慌しく9月が終わりそう。
9月は、毎週週末にかけてアメリカの金融世界が宿題をてんこ盛りにして、日曜に大仕事が待っているという展開だったが、いやしかし、それにしてもすごい2週間でした。

とかいって振り返っている場合じゃなくて、金融対応策というか、巨額資金を投じて金融危機を救いましょう案が行き詰まったままになったので今週も大変。基本的には、可決していくんだろうなと思ってみているんだが、何か下院共和党がただならぬ様子にも見える。実際問題、なんで俺らの税金で金融業界の尻拭いをするんだ、冗談じゃないという声は圧倒的に強く、それはそれで、そんなことじゃなくてと押し切るのも確かにどうか、という話ではあるので、ある意味、これは有無を言わさず、危機です→挙国一致体制です→なんでもやりましょう、というブッシュ政権お得意のパターンで乗り越えたかったんだろうなとは思う。そのためにブッシュ氏もわざわざ演説をして国民に訴えていたが、訴えられると、むしろ「寝た子」を起こすことになったりして?とかも見える。意地の悪い言い方だが。


エコノミストによってはもう既にこの案は可決されるものとして次の経済シナリオを書いている人が結構いるみたいなんだが、ここに来て、ちょっと・・・になるのか否か。私はならないと思っているわけだが、でも、国民の声が表に出すぎてきたら、議員さん、特に下院は振り切れないと思う。日曜が楽しみ。


そういう中で、


マケイン・オバマ両氏、金融危機対応で論戦 米大統領選討論会
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20080927AT2M2700Z27092008.html

米大統領選、初の候補者討論会…金融危機対応策で応酬
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20080927-OYT1T00353.htm?from=top


なるイベントがあったのでテレビを見た。


金融危機対応も言い合いにはなっていたけど、むしろ、イラク、アフガンあたりの外交問題の方が白熱していたようにも思う。


カナダの報道によれば、直後のCNNのアンケートでは、51%のアメリカ人がオバマが勝ったと、38%がマケインが勝ったと考えているそうだ。

A telephone poll conducted by CNN after the debate said that 51 per cent of Americans thought Obama won the debate and 38 per cent thought McCain won.

http://www.ctv.ca/servlet/ArticleNews/story/CTVNews/20080926/obama_mccain_080926/20080926?hub=CTVNewsAt11



個別の論点ではない全体を見た個人的な感想としては、72歳の男の人生観がこういうのって、どうなのかなと、思いがけず人生を考えてしまった(笑)というのと、オバマはうまくなったし、危機を背景にすれば、やっぱり壮年期の男にはパワーを感じるよな、ってなのがまずなんといっても印象深い。


いや、マケインという人はこういう人でこういうことを考えてる人だ、というのはわかっていた話だが、いやしかし、かいつまんで言えば、世の中には敵と味方があるんだから、味方で固まって敵をやっつけよう、というアイデアを堅持してるわけだすよ、この人は、というのを改めて眺めつつ心が苦かった。


マケイン氏が言うlike-mindedの国々で固まろう(たとえば自由と民主主義の国々で、というやつ)って、聞こえはやさしいけど、要するに、ブッシュ氏の名高い、俺と行くのか、それとも敵になるのか、っていう区分方と同じことの別表現だ。

で、怖いと私が思うのは、ブッシュの場合は、既にクリントンの後半から(その前からというのはとりあえず置くとして)ターゲットはイラクだったし、911もあったし、戦時緊急事態的な構え方になるのは無理はない(良いか悪いかではなく)一方で、マケイン氏の場合は、敵認定枠組みが先にあって、誰をターゲットにして言っているのか不明だという点。誰でも敵にできちゃう。


特定の問題について特定の時間枠でAを取る私たち、取らない彼ら、という話の持っていきかたなら、そうでない時には別のグルーピングをすればいい。突き詰めれば、絶対の敵もいなければ絶対の味方もいないが、相互に連結しているから安定みたいなのが理想的か。が、漠然と同じ考え方をする私たち、という考えを許容し出すと、「私たち」を不特定、あるいは恣意的に使用でき、同じ手順で、「非私たち」には誰でも入る。


端的な例としては、ついこの間まで、この「非私たち」にはチャイナが入りそうに見えたこともあったが、最近はロシアがすっぽり入ってる。その前には、イスラム一般というのもあった。考えてみれば、like-minded or not(同じ考えを持つ人たちかどうか)、go with me or not(敵か味方か)、という区分法というのは、イギリス人またはイギリス系の強いところ(一部カナダ)が非常にしばしば使う「the West」と同じアイデアの別表現なのだろう。

the Westも、最近は、ロシア以外はみんなthe Westという括りに変わってきたが、つい最近までそれは、チャイナをはみ出させるために使われることが多かった。でもって、きっと70年前は言うに及ばず、つい最近まで、日本をはみ出させるために使ってきてたんだろうなぁなど思う。この発想法のアメリカ国内版は、weとtheyの恣意的な使用となる。


と、こういう、自分と違う人と仲良くできない、というアイデアを少しも疑うことなく多数の人のリーダーになろうとするというのはいかがなものか、など私は思うのだった。

同時に、年を取れば取るほどに、他人の存在や生き方をできる限り尊重できるような人になっていたいものだ、などとも思ったw。


とはいえこれについてはあまり批判する気がないのは、だって、世界はそもそも多様なんですもの。
で、そもそも多様でも、多様部分の力または大きさ、存在感が小さかった場合には、そんなの無視して、「俺と行こう、な」と押せたけど、その他世界が大きくなってきた以上、その方法ではちょっと無理だと思うわけです。これは経済の世界でG7だけでは抑えられません、何をやっても効果は次第に限定的になっていくのです、ってな成り行きと同じだと思う。


押すとか、囲い込むとかいうイジマシイ話じゃなくて、原理原則としてこれ、コードとしてこれを私たちは主張する、なぜならこれはここが良い、あそこが良い、だからこうしよう、と呼びかけ、それに他国が納得してついてくるというアメリカであってほしいものだ。


アメリカの大企業というのは一部軍事産業以外はほぼ多国籍企業だと思うのだが、今回かなりオバマに寄っているのではないのかという説が根強くみえるのは、それなりにかなり理解できるものがあると思う。多国籍企業は、現地の諸法規、文化を尊重して現地社会と付き合うよう各国でかなりマジな取り組みをしているわけで、俺たちと似た考え方だけで固まりましょう系ではとても持たない。


でも、マケイン的には、軍関係のコミュニティとか、あと、アメリカ国内で強い企業とかの賛同は得られるだろうから(ビールとか)、それはそれなりに勝算があって敵味方措置法を貫いているのかもしれない。ただ、これはジリ貧だとは思うが。



オバマの存在感の方は、なにしろ時間がオバマに追いついた、という感じ。


まだ寒いうちは、チェンジ、チェンジというが何を変えようというのだ、と聞いてる方が腹がたったものだったが、華々しかった投資銀行は潰れる、MMFは元本割れ、政府は保険屋になってる、金融街の激変でNY市の税収は大変なことになりそうだ、ガソリンは高いまま下がる見込みはあまりなさそうだ云々と、ここに来て、いずれにしても変化しないわけにはいかないわな、だって、と誰もが思う事態になっている。このシナリオを書いた人はすごい、とか言いたいものもある。


さらにこの大事態を前に、壮年期の頭の良い男というのはそれだけで買いでしょう。
たとえ昨日まで良く知らないマターであっても、徹夜で専門家にブリーフィングをさせれば筋をしっかり読めるだろう素地があって、その体力があるなら、まず良し、と。


この点で、マケインさん・・・・と討論を見ていても思った。自分は過去にこれもやったあれもやった、この人とこれをしたあれをした、というのを始終言っていたわけだが、平時ならそれは経験だろうが、有事に必要なのは過去データではないかもしれないわけで、ちょっと困る。アメリカのみならず結構世の中の趨勢というのは動いているものなんだという把握が非常に弱いと思った。


しかし、これはアメリカの選挙なので、世界関係ないという人が大勢を占め、さらに、理知的に話すよりも、感傷的な話が好きな人も多い。将官オバマを選ぶだろうが、数が多いのは兵だという言い方もできるかもしれない。マケイン様、オバマはストラテジーとタクティクの区別が付かないようだなと馬鹿にしきった顔で語っていたが、私には、えええ???だったっす。


私は個人的にはオバマおよびその嫁という組み合わせを超絶に嫌っている方なのだが、それでもとりあえず、このところの大勢と今日の討論からは、オバマが勝ってるなとしか見えないし、私のバイアスはオバマに厳しいので、もしかしたらもっとそうなのかもしれないなど思い出した。




米大統領選:オバマ氏「クール」返上し猛攻 初TV討論
http://mainichi.jp/select/world/news/20080927k0000e030055000c.html

得意の外交・安保分野では口調もなめらかになり、経験とリーダーシップをアピール。イラク政策ではオバマ氏をたしなめるように「あなたは作戦と戦略の違いを分かっていない」と述べ、オバマ氏の「未熟さ」をあぶり出す戦略に出た。


妙なものを拾ってる記事だなぁとちょっとクリップ。
全体的にこの記事の書き方には違和感があるわ、私は。


この記者の印象では、オバマが攻撃的で、マケインがおだやかで余裕かましているように見えたということのようだが、私は、オバマは突っ込みが足らず、攻め切れていなくて(話を自説のハイライトにもっていけるチャンスを生かせないみたいな)、マケインは、笑顔を作りつつ、オバマを馬鹿にしよう、経験がない、感情に訴えない学者頭、何もわかってないヤツだ、みたいな像にしようとしているように見えた。その意味で非常に低級だが非常に攻撃的だったと思う。


が、しかし、たとえばその作戦と戦略がわからないようだ、というのはかなり苦しい言い訳に聞こえた部分だったし、さらにいえば、マケインから聞くのはほとんど過去に誰と一緒に仕事をしたか、私はこれをしたあれをしたばかりなわけで、構想力とは遠く・・・うううう、それで戦略ねぇ・・・とかも思った。


あと、オバマを猛攻と書くのは、もしかしたら、オバマの話し方が、低くて大きな声で論点をまとめて言うという方式なので、おじいさんが皮肉を言うのと比べると猛攻に見えた、という感じも影響しているのかもしれない。このへんは、記者には「猛攻」に見えたかもしれないが、アメリカ人にとっては迫力があって良い、に映った可能性もあるかも。


穏やかな語り口で「クール」といわれるオバマ氏だが、この日は冒頭から厳しい表情でマケイン氏を攻め立てた。同氏はこれに笑顔を浮かべて応え、ベテランとしての「余裕」を強調して見せた。


これも、???だなぁ、私は。オバマは穏やかな語り口の人だろうか? 結構、いつ見ても怒れる若者的だと思うよ。論が先に立つから、自分がどう見られているのかを構ってられなくなるタイプだとも思う。クールだという評は、そういう阿らない感じと、夏の頃など特に、シャツ姿で腕まくりして精力的に活動している行動形式、スタイルが「クール」、ちょっとカッコいい、という意味で使われていたんだと思う。だから、静かだ、穏やかだというニュアンスではないでしょう。私は前申す通り、ああイヤだと思ってみていた方だが、働き盛りなので頑張れるってのはこういう不安定な世の中では相当にプラスだよなとは思ってた。