亀裂

5月も半ばを過ぎたというのに今日の気温は一桁。夜間は5度予報だったと思うが、実際今日の私のいでたちは皮の半コート。今年は本当に寒い年だ。カナダ人があんまり地球温暖化とか言うから、え、寒いのが好きってこと?と早とちりした神様が寒い年シフトを使っているに違いない、などと冗談を言い合いあっているっす。


地震の被害にあっている四川では暑くて湿ってるという状況がレスキュー後の事態を厳しくさせていると聞くだに、暑いと大変だ、とは思うものの、でももしこんな気候だったら、危険だ、外で寝る、という行動も取れず(今ぐらいなら凍死はないと思うが)、それはそれで大変。どっちがいいのだろうか・・・災害がなけりゃいいわけよねw。


と、思うだに私の関心はそこに行くわけだが、震災からここまでの8日間を振り返って私が感じたのは、そういう私はここでは少数派、つまり、なんつーかこう北米で見たチャイナ地震報道の熱のなさ、というのが非常に印象的だった。

スマトラ地震の時のあの騒ぎはなんだったんだろうかと振り返ってそう思う。これは欧米人がリゾートで被害にあっていたという点と正月休みだったという時期が重なったのでフォーカスされやすかったというのもあると思うけど、あの時の熱の入れようと比べると、トーンが低いなぁと思った。

ただ、地震は世界中で起こっているわけで、ユーラシアの南側、イランとかパキスタンとかそのあたりでもかなりエグイのが来ていたわけで、それと比べてみれば今回の方が報道の露出は大きいとは言えるかもしれない。しかし、いずれにしても、非常に見ず知らずのところを見ているといった視線があるなぁとあらためて思った(実際そうなわけだが)。


2日ぐらい前だったか、カナダの新聞に、唐山地震の時と比べたらなんて世の中変わったんだろうと思うよ、ほんと、という趣旨のコラムが載っていたけど、これはつまり、わずか30年前、多くの犠牲者を出した災害を隠しておいたという、その異質性みたいなものを改めて人々に知らせる結果にもなっていたでしょう。同時に、当然、そういう国からしたらよくやっている、という褒めてるんだか褒めてないんだかわからないような、ちょっと冷たい視線が透けてみえる。


もちろん、大金持ちのチャイナなんだから自分でなんとかするでしょう、じゃ、ってな「配慮」もあるだろうし、見れば何かしらこっち側と違う、なんかこう、そうじゃないだろう(そんな建物建てるな、なんだその初動は等々)とどうしたって批判が陸続になるがそれによって動揺されるのは面倒だ。なんつっても、今はチャイナにはできるだけ穏便にお過ごしいただきたい、落ち着いとけよ、着実にいじめはするけどさ、今じゃないんだ、今、俺らは忙しいby西側、ってな感じもあるにはあるんだと思う。


で、その最たるもの、というか、その極言だなこれ、と思ったのは昨日のビジネスニュース番組内のあるおっさんの発言。

何でそこに話が行ったのかは聞いてなかったんだが、ふと気になって聞き始めたら、だからチャイナを怒らせるな、俺たちがやるべきことはお金を稼ぐこと、彼らは批判されるのが大嫌いなんだよ、だったら批判するな、どのみち100年も後れた国なんだ、don't make them mad, make MONEY(彼らを怒らせるな、金儲けしろ)!!と思いっきり言っていた。一週間に3回ぐらいは出てくる定番の投資家が本業らしいおじさん。


で、司会にあたる側の方のおっさんが、あんたそう言うけどさ、コミーの政府はロクなもんじゃない、そういうこと、俺はそう思う、と切った(時間枠が終わりだった、ってことだが)。


なにこのストレートの応酬はと驚きつつ、ああカナダだぁとかも思い(とにもかくにも個人の発言の自由度は普通に高い)、でもって、批判する人の方が愛がある、ってユニバーサルに一般原則だよなぁとしみじみ思った。


しかし、それにもかかわらず、世の中には、例えばコミーとか言う言辞をひっぱってきてあの人は反中だわ、とか言う批判をする人がどこかにいそうだなと思い、そうして、批判するなと言っているおじさんは、頭の先からつま先まで、金儲けという仕事だからさ、いろいろ辛いこともあるけどさ、といプロの態度を貫くために、チャイナ批判をする気がない、そんなの俺の仕事じゃないから、やつらはやつらだから、で、この表層のために親中とか言われるんだろうかなぁと思うと想像してちょっと笑えた。


しかしながら、イギリスをはじめとした欧州勢はまた別に冷酷だが、アメリカの対中の態度というのは門戸開放を迫るの図以来ずっとこうだ、というのもあるわけで、それに気づく北米在住のメインランド出身チャイニーズの子弟というのは結構冷や水、複雑なものであろうなどとも想像する。でもって、それが故にねじれた格好で「ナショナリズム」めいた発想が惹起され、それが本国勢にも伝播するという図もあるだろうかななどと思っても見る。

これは、多分に傷ついた自己のアイデンティティ修復を図るため理想の自画像(大きくて強いチャイナの私)を描くという操作においては巷間言われる悪しきパターンのナショナリズム発生と変わるところはないんだとは思うのだが、ここで問題なのは、発生原因は主として(正しくも)、欧米、西欧への反発心に由来するのもかかわらず、出口では反日になるという奇妙奇天烈な構図か。この構図を奇妙にしないためには、すべからく欧米+日本は資本主義、帝国主義だったという見解は理論上は多分上手くフィットする。しかし、実際には官製愛国主義下では出口は反日しか許されていなかった。このヨジレをどう修復していくんだろう・・・。


ぶっちゃけ、100年とか150年前なら、そのヨジレの解消は、いっぺんイギリス、アメリカあたりと戦争して勝っても負けてもくたくたになるとかいう方法で転換する可能性もあっただろう。だってそういう時代だったんだもの。でも今はそういう時代ではないし、日本相手では全く本質的でないと思うから振り出しに戻るになるだろう。要するに時期を逸しているので、多分、できない。ではどこでその複雑な心情を転回させられるのかというのがなかなか難しいと思うんだな。


チャイニーズの若い衆がいつ見てもと言っていいぐらいに固まって母国語で群れているのを見るだに、なんかなぁ〜とヒヤッとした風を感じるのざます。余計なお世話だろうが。


いずれにしても、私は普通のというか、ちょっと頭の勝っているらしいチャイニーズの子女または中ぐらいのエリート諸氏の今後の動向が注目だなぁ〜とか思う。


今回の地震でひびが入ったのは地面ばっかりではないのではないのか、など思うな。