大敗走はプラクティカルなのか


2月29日という4年に1度しか来ない日の株価急落で終わった先週の北米。そのきかっけとなったのはバーナンキFRB議長の半年に1回の議会証言。大きな銀行は心配してないですけど小さな銀行で潰れるところはあるでしょうね、とあっさり言われて人々は青くなった。でも、冷静に考えるまでも無くみんな予想してたことじゃんか、でもあるわけで、ということはむしろ、これはつまり、モノライン処理が進むこともあるんじゃないかと若干の安心感を誘っていた(あるいは下げなれて適当に安心感が漂っていた?)市場に、冷や水、冷静になるよーにとのベンさんのお達しということだったのかと思う向きもあれば、こんなに神経質になってるところになんでそんな思い切ったことを言うんだとベンさんを非難する向きもある。

いずれにしても住宅価格の下げ止まりまではとりあえずこんな形で進むしかないんだろうと思えば、早いところ損失を確定させていった方が被害は後になるよりは小さい。ということは、隠してるものとかまだ一縷の望みとか持ってぼやぼやすんじゃないよーーー、早いところwrite downしろよーと背中を押してるんだろかなんても言えるのかしら。なんかそんな気がした。早く最最最悪地点を見込め、と。

で、この事案の隠れたモチベーションは、日本みたいになったら大変だ、なんだろうなとか思ってみたりもする。問題の枠を見通せずに対策が遅れた、と。

(対策が遅れたというより、リアルタイムでそこにいた私としては、途中からなんか全体の論調が自業自得、盛者必衰みたいな言にすぐに直結して、純粋な経済問題というよりも人間の欲問題に入って言ったような気がする。つまり一般に合理的な経済対策をどう取ったらいいものかという前に道徳論に行ってそこでの滞留期間が長かった、みたいな。一般に損失隠しという語が流布したけど、これも合理的に処理しても、不道徳だと非難されるから出すに出せないみたいなことってなかったのかしら?なんて思ってみたりもする。これも日本のファンダメンタルズの一つには違いないんだろうけど。今のアメリカを見ていると彼我の差を感じずにはいられない点かも。アメリカも欧州もこれに対して、起こってしまったものは起こってしまったもの、次どうするか、しか考えてないって感じは相当濃厚。だからといって何か有効な策が生まれるという確証はないにしても、立ち上がる時に道徳論、人生論を払拭しなければならない回り道はないとは言えるだろう。)


一方で、ベンさんの議会証言をきっかけに各地で怒涛のドル安が進み、こっちの先もまったく見えない。


通貨供給量を増やす→金利が下がる→クレジットクランチを避ける、住宅ローンの借り換え可能期待を含む、
という流れが現在志向されているアメリカさんなのだろうが、でもそこでインフレ発生が見込まれているとこの効果は期待できない。

で、そもそも簡単にインフレになりやすい土壌としてそれは見込まれていた上で、日を追うごとにホンマになってるやんけ、となった。通貨供給量が増えて金利が下がるの意味は、通貨価値が減る、ドルが安くなるを誘導するから、安いドルが買えるものは減る(買うものの値段があがって)、ものの値段が上がる、ああインフレサイクルだとなって、一方で、ドル安は輸出にいいじゃないか、儲けを増やしてもいるじゃないかと強弁してみてもその期待値は思ったほどではなかったというのが今週人々がベンさん証言で確認できたこと。その上投機マネーによるコモディティ関係全体の高騰、ちょっとの高騰じゃなくてすごい高騰があるからこれがまたインフレ要因としてちょとやそっとでは動かないだろう、もある。


最近これ系の本を読み出して、よーやく頭の整理ができた私の言うことだからまったくあてにならないが、でもその限られた知識の中でいえば、本に書いてあるとーりのことが起こってる、みたいな感じは相当して、損失を抱えている向きには申し訳ないが、リアルタイムの経済授業みたいで楽しい ww。


で、この状況に対して、各紙はベンさん大変なんですけどどうしましょうと疑問を表明しているような、そうでないような微妙な感じ。
インフレ懸念がFRBの計画に打撃、とFTがいい、ビジネスウィークは、「バーナンキの歴史授業」とかいう記事を書いて大恐慌時代を専門にしてきたのはわかるけど、その成果をそのまま適用しようとしてんじゃないだろうねと懸念を示している。でも、逆にいえば、こういう記事が出回ることによって、状況は楽観できません、まったく、を周知徹底しているとも言えるのかも。だからって回復基調になるわけではないが、下向きに行くんだから早く損切りしろ、今は損失の限定えが先だを徹底して、潰れるところは早く潰れて、回転を上げようとしているとか? いやわからんけど。The Economist欧州中央銀行との対比で、インフレ懸念を焦点に据え続けている欧州側に軍配を上げているっぽい。


すべからく大敗走、何も誉められたもののないアメリカのこの1週間の中でいえば、主要メディアが冷静だし、勇気あるよなぁという点が印象深かった。1)


参考
Inflation fears could hit Fed plans(FT)

Bernanke'sHistory Lesson(BW)

Oceans apart(E)

[捕捉1)]

なぜ勇気あるよなぁという感想が出たかと言えば、恐ろしい状況に対して主要メディア(特に経済紙)が、いわゆる庶民、いわゆる国民の名を騙って、一緒になって叫ぶ、恐怖に耐えられないという姿勢を取る、なんでこんなことになっちゃったのぉおおおと嘆く、といったことをせず、あくまで分析していたから。彼ら的には当然ちゃ当然なんだろうが、日本の主要紙を見慣れた私としては、勇気あるよなぁ、頑張るよなぁとか思えた。日本の新聞は我先に叫ぶことを国民の代弁と勘違いしてると思う。何によらず。


日本で最も非関税障壁が高く、輸出競争力がないもの、どこに出してもプアなもの。それは主要紙を初めとしたメディア。これはガチ。ここを変えられない限り私たちの将来はあまり明るくない。ま、無視して他の回路をどうにか取ってしのいでいるうちになんかの転機が来ないものかと真面目に憂える。もう、どこか、とんでもなく極悪なメディア王とかが買収に来てくれるぐらいの事態の方が、このまま沈むよりもマシではないのかとさえこの頃思う。少なくともリアクションから先の展開があり得るでしょ、とか思うの。