スタンガンか通訳か


先週から今週末のカナダの人々でこの問題に言及して腹を立てなかった人はいないんじゃないかというぐらいに、すごいことになっている。


一瞬のすれ違いで生じた悲劇、ポーランド人移民がカナダ警察に撃たれ死亡
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/crime/2312847/2361553

カナダの空港で、警官が用いたテーザー銃と呼ばれるスタンガンで撃たれたポーランド人男性が死亡する様子を映したビデオをめぐり、スタンガン使用の是非を問う論議が高まっている。ポーランド政府は15日、カナダ政府に正式に抗議し、事態を重くみたカナダ政府は同日、テーザー銃の使用を再検討するよう指示した。

という話に落ち着きつつあるんだが、しかしこの見出しはちょっと???。AFPで訳してくれたのはいいけどちょっと誤解を招くと思う。一瞬のすれ違いではないし、「撃たれた」というと普通の銃を想像するけど、これはスタンガンなのでちょっと異論のあるところ・・・・(とはいえ、以下に書くように、そう言っても不思議はないしそう言いたくなる気持ちは重々わかりすぎるほどにわかる)。

概略

事件のあらましは次の通り。先月14日(以下現時時間)、ポーランド人の40歳の男性が、バンクーバーに住む母親と一緒に暮らすために、ポーランドからフランクフルト経由でバンクーバーに到着したところで発生。

到着して、移民審査から荷物を受け取って、税関を通って出て行くという流れの中で、男性と母親は荷物を受け取るところで待ち合わせをしていた。

悲劇というのならここにまずひとつの悲劇があった。税関を通らないと外のパブリックスペースには行けないから、外から来るお母さんと男性はもともと荷物をピックアップするカルーセル(あの荷物がぐるぐる回ってるところ)では待ち合わせできなかった。

悪いことに、男性は英語が話せず、飛行機の旅もこれが始めてだった。
その時そこにいる人が得られる情報ではないわけだが、先に移民していた母親が苦労してお金を作って、生活できるようになったしバンクーバーは建設ラッシュだしというので一人息子を呼び寄せた。移民手続きには何の問題もない。

手続きそのものには何の問題もないがイミグレ(通常のイミグレではなくて、最初のランディングであることもあり)で2時間だか3時間だかかかり、その後うろうろするも、何がなんだかわからなかった模様で、母親に言われた通りカルーセルのあたりになんと6時間以上だかいたらしく、空港に着いてから都合10時間が経っていた。

それにより(といって言いと思うが)、脱水、低血糖、緊張、恐怖いろいろ混じって彼は疲労困憊というべきか、錯乱というべきかという状態になって、椅子を持ち上げたり、あたりにあった机の上のコンピュータを落とす等、要するに他から見れば、おかしくなった人、と言うべきだろうという状態になった。


その間お母さんはというと、当然、息子が出てこないので、空港当局者にどうしたらいいかと助けを求めに行っていた。セキュリティエリアだから入れないのは理解する、じゃあどうしたらいいんだ、息子は英語も話せないし、探してくれと3回だか4回だか助けを求めて話しかけて、ようやくそのうちの一人が乗ってはくれたものの、息子さんはそのエリアにはいないと言われて、これはもう息子は便に乗り遅れたかなんかあったんだろうと6時間待って、自宅に帰ってしまっていた。


でそうこうするうちに、空港に詰めている警察がやってきて・・・・。信じられないことだが、警察到着後大目に言っても30秒あるかないかという時点で、スタンガン発砲、若干の格闘の後男性は死亡した。


ビデオのリリース

この話は最初はスタンガンの使用の是非という既にある問題にまた起こったケースとして報道されていた。で、その中で、RCMP(連邦警察)はこのケースでのスタンガンの使用を肯定、擁護していた。


ところが、そのRCMPが説明している状況がどうも違うらしいという話になってきた。つまり、スタンガンの使用を擁護できる状態にあったと警察は言っていたわけだが、ちょっと違くないか、と。

というのは、現場にいた人がビデオを撮っていたから。ビデオを撮った人は2人いて最初の人のは携帯で撮ったもので、また、位置からなのかなんなのかあんまり全体像がわかるものではなかった(らしい。私はこれを全部は見ていないからテレビ報道を見る限りそんな感じ、であることを記す)。が、もっとクリアなものを持っている人がいた。

しかも、その人はそのビデオを警察に協力して渡していて、その際に48時間以内に返却するといわれたが、返却されたのはメモリを抜かれて新しいメモリが入ったものだった。つまりオリジナルの映像を没収された、と。で、この人が弁護士を立てて法的手続きを取るぞとなって初めて警察はそれを返した。

で、そのビデオが地元のCBC、イギリスBBC、あとはCNNと、Youtubeに出回って、さあ大変となった。

ビデオは確かに、男性の尋常でない様子が数分間映し出されている。それはそれで、こりゃまずいなと誰でも思うだろう。が、しかし、別に誰かに危害を加えているという様子には見えないし、実際、これはこの人は英語を話せないんだな、困惑しているんだなと思った女性が語りか書けたりもしている。

そうこうしているうちに、警察が登場。その前にはそこらにセキュリティのおっさん、あんちゃんもいる状況。
そこで、警察が取った行動は、全然抵抗の様子のない男性に至近距離からスタンガンを発射。続いてもう一発。さらに畳み掛けるように、一人の警官が男性に体重を乗せた。で、男性は心肺停止状況となったが、そこで蘇生措置を取るわけでもなく、12分後にパラメディックが到着したがその時には既に男性は死亡していた。


と、この様子がこれ、
http://youtube.com/watch?v=qHKk5qQRzL4

今現在499,530ビューで、コメント6216。


一体これはなんという事態なんだ!


私も見たのだが、私も6000以上のコメントの大半の人と同じく、どーやってもこれはRCMPを擁護できない。自分が見たものが本当だなんて信じられないぐらいだ。スタンガンの使用の全体的な是非は置くとして、あるいは基本的には賛成だとしてもこのケースはそれだけではまったくすまない。


・警官は現場に到着して、相手とコミュニケートしようという意思をまったく示しておらず、スタンガン発射を第一オプションにしている(としか言えない)
  (警察の当初の説明では、抵抗しているから使用したんだ、になっていたがそうはとても見えない)
・まったく無抵抗といっていい中年の男性一人を、職業柄屈強または訓練されているはずの壮年期の男4人で身体的に拘束できないのか? 
  (警察は最初、警官は2人だったと言っているが、映像には4人いる)
・スタンガン発射だけでも苦しんでいる状況で、その後体重を乗せたりして窒息させるような真似をしなければならない状況はどこにもない。

という疑問が沸く。
さらに、事はセキュリティエリアで起こっている、つまり、彼は武器を所持していないであろう蓋然性はとても高い(セキュリティを通過したから飛行機に乗ってる)のに、なんで第一オプションがスタンガンの制圧なんだ、というのがそもそも問題だと見る人もいる。私もそう思う。ビデオを見た人は、平たく言ってこれは警察による殺人じゃないかという人もいっぱいいるんだが、これも不謹慎とは言えないかもしれない。


が、しかしこのへんが私にはさらに腹立たしく思えたりもするのだが、報道の基本線が、折から問題視されていたスタンガンの使用にフォーカスがあたっている。しかし、実際に人々が口にし、上のコメント欄で騒がれているのは、RCMPに対するかなり大きな不審がまず第一。

で、それにもかかわらず、RCMPは、

同報道官は、事件にかかわった警官が当時の状況と行動について説明するまでは、ビデオの内容だけから早急な判断をすべきではないと国民に理解を求めた。

とか言うので、さらに憤激を引き起こしている。で、このビデオが出回って国民的およびポーランドでは大騒ぎ、各国からの書き込みもネット上に広がるという事態があるまで、連邦警察はこの事件にあたった警官をそのままにしていたというのも、当然憤激の的。ようやく配置換えをしたようだが、これはこれでさらなる憤激となるのは必定でしょうが、連邦警察は「非」を認めていないので処罰するわけにもいかないということの模様。


スタンガンじゃなくて通訳を


もっと問題なのは、空港にいるセキュリティたらいう名前をもらった人々は一体何をしていたのだ、なのだがこっちはまだ全然手付かずで、話題がスタンガンの使用の是非になってしまっている。このへんのこう、なんでも運動とかなんとかに結び付けてしまう報道体制というのはかなり疑問が残る。


そもそも、同じ場所に4時間も5時間もうろうろしている人がいたら、誰か声をかけるなりできなかったのか、それこそセキュリティの仕事じゃないのか?だし、お母さんが訴えている事情を真剣に聞いて、本当に探したのかにも疑問が残る。一瞬の出来事、20分スケールの出来事ならすれ違いというのもあるけど、両方とも、ものすごい長時間待っているんだから、その間に、あれ、と気がつく人が壁の向こうとこっちにそれぞれいてもよさそうなものではないのか?

さらに、男性が尋常でなくなってきた時に、ああ、あの人ずっといた人だと思う職員はいなかったのか? でもって、ここは空港なんだから、たとえ相手の言葉がわからなくても、パスポート見せろと言ったらどこの人かわかる、言語も特定できるだろう。そう、なんで、通訳できる人を探さなかったのか、彼に必要だったのは通訳であって、スタンガンじゃない、とみんなが怒るのはそこ。


Youtubeの書き込みに、カナダではポーランド語はそんなに珍しいのかと書き込みがあったが、これは明らかに皮肉でしょう。ものすごくどこにでもいる。もしかして、これは緊急事態です、どなたかポーランド語かロシア語ができる人がいたら助けてくれと空港内でアナウンスしたら、すぐそこらに誰かいる可能性はかなり高い。そうでなくても、例えばパラメディックとか医療機関とかではおそらく契約してる通訳リストとかあると思うんだが・・・。一体、何を想定して、マルチカルチャーのコミュニティでございますなんて言ってるんだ!と人々が怒るのも無理はない。あっちにもこっちにも予算をつぎ込んでも、こんな仕事しかしてなかったのか、と。


要するに、空港当局のサービスというのはこのように恐ろしく低レベルなものだというのがただ丸わかりになっている。しかも、こんな事態が起きたらお詫びの会見ぐらいしてもよさそうなものだが、すべては調査の後でということなのか、死に至る問題は警察だからというつもりなのか、だんまり状態の模様(私はバンクーバーではなく東海岸なのでテレビ情報が違うので遅れているかもしれない)。どうかしてると思う。


そういうわけで、連邦警察は、予断を持つなみたいなことを言っているが、人々は、次にどんな言い訳を持ってくるのかと思って待っているといったところか。そして、どうせお手盛りで中で調査して終わりだろうとかなり冷ややかに見られている感じがかなりする。


若干の余波

まさか大事になるとは思えないが、ネットといえばそういうところということでもあるが、ええ、こんなところでオリンピックするのぉ!!といった書き込みがyoutubeに見られる。

また、なんといっても911以来、大量のカナダ人はアメリカ人をこき下ろしてきた経緯も実際あるわけで、ちょっとした仕返しが起こっている模様。カナダでは英語を話せないのは不法です、椅子を持ち上げたり家具を壊すと死刑になることもありますのでご注意くださいと書いておけとかいろいろ言われている。

で、少なからぬカナダ人を困惑させているのだが、カナダを大事に思うのなら、実際起こったことはあまりにも貧しい、あまりにもお粗末な体制(関係者のものの考え方も含めて)ということなのだから、カナダはいいところです、どうかこの1件で全部を判断しないでなんていってないでなんとか対策を考える方にいくべきだと思うし、そうあって欲しい。


なんにせよ、この男性とお母さんが気の毒で気の毒で見るたび泣けてくる。


[捕捉」
移民が警官のスタンガンで死亡、映像が明るみに カナダ
http://www.cnn.co.jp/world/CNN200711160016.html

男性は到着ロビーで約10時間待たされて腹を立て、暴れ始めた。目撃者のビデオには、警官が制止を試みた末、スタンガンを発射する様子が映っている。

とCNNの記事にあったが、この記者はビデオを見たんだろうか? 警官が制止を試みた、とはとても言えないから、卑怯な警察、脳なしの馬鹿者等々罵倒されているのだが・・・。

つまり、状況からOBVIOUSLY、明らかに明白に、彼は英語を理解しないと誰もがわかっている状況に警官が飛び出してきて、手をあげろ、床に伏せろみたいなことを英語で言って、それを制止と呼ぶのか、お前、というところ。


でもって、実際にはビデオを見ればわかる通り、この男性は警官に抵抗していない。それどころか、ここがまた人々の胸を締め付けている。

ポーランド語がわかる人だけじゃなくて、英語がわかって状況が理解できる人々の見解として、男性は、何がなんだかわからない状況の中で警官が来たのを見たとき、「ポリツィ」(ポーランド語のポリスらしい)とか言って、ちょと安堵したように見える、と。つまり、ああ、やっと当局者が来て助けてくれるんだと思ったようだった・・・。にもかかわらず、実際に彼を待っていたのはスタンガンだった。

何回考えても、なんて話なんだ!としか思えない。


[捕捉2」

個人的な対処法を考えてみる


ポーランド移民という、北米移民の古典的定番の人々に関する問題だったので、ついうっかり、移民の人に起こる話に見える人がいるかもしれない。

しかし、事件の骨格には移民であるなしは関係ない。旅行者でたまたまどうしようもなく何かが遅れて、会おうとしていた人に会えず、英語もでなきないといったケースで、本人の意図がどこにあれ、あるいは身体的な限界がどこにあれ、オーソリティが脅威と認識するに足る行為を取ったがために(この人のように大げさでなかったとしても、どこにラインがあるのかはこちらは判断できない)、スタンガンで撃たれるというケースがあるかもしれないし、良くてもとにかくこういう具合に拘束、制圧を目的とする人々が配置されている以上、予想外の展開があるんだと思い知るのはいいことかもしれない。

(とはいえ、この事件を受けて、今日の報道によれば幾つかの州でスタンガンの使用は保留となった模様)


そういう時、絶対の困惑が発生した場合どうしたらいいか。
自分で頑張ってももう限界だと思ったら、まず通訳できる人を求めるというのが正しい行動だと思う。

別に本式とか専門とかじゃなくていい、とにかく自分が言いたいことを自分よりも適切に当局者に取り次いでくれる人がいれば事態の悪化は避けられる。


しかし、どうやったらそういう人をそこで求められるのかが実際、問題だ。
I don't speak English, get me anyone who could help me, pleaseとか is there anyone who speak Japaneseとかとか、とにかく言ってみるというのもいいんだが、咄嗟に口に出ないというケースも多々あるだろうし、緊張していればそういうものだ。

そういう場合は、ひたすら、ジャパニーズ、トランスレーター、プリーズとか言ってみるのもいいんじゃないかと思う。通訳はinterpreterで翻訳者はtranslatorだといった括りは基本的には職業区分以外では意味ないです。トランスレータといったからといって書き物専業の人が来るなんてことは絶対ありません。で、インタープリターよりトランスレーターを薦めるのは、こっちのほうが、平たく言っても、アクセントなんておかまいなしに、どう転んでもそう聞こえるだろうから。interpreterは発声と聞き取る人の間に言語バリアがある場合には、なかなか伝達が難しいかも知れない。


それもできなかった場合。
私が考えるに、もう本当にどうしようもない、完全に怖い状況だとなったら、病気のフリをするのが一番確実に事態から脱出できる方法ではなかろうか? 気合で病気になる!

パラメディックスから病院に行ったら、確実に各種コミュニティとの通訳サービスとの連絡がある。
少なくともパラメディックスは暴力的に事を運びはしないだろう。

もちろん、まったく気楽に薦められるものではないけど、もうどうしようもない、命にかかわると思ったら、オプションとしてこれも頭の隅に入れておいてもいいかもしれない。嫌な世の中だが。