カナダドル続伸と高度経済成長期憧憬


カナダのこの一週間はカナダドルが強い、強いの話であふれていた。
実際、今日現在ついに、93.43近辺だそうだ。

これは1977年以来の快挙とでもいう事態だそうで、おおむね万歳がカナダの基調だが、その一方で予想通り製造業者が雇用を解雇するなどといった動きとともに、これは困ったという反応もある。

また、通貨だけが強いってことはないわけで、マーケットがそもそも活況を呈しているからこうなっているわけだけど、全体としてこの強い経済をこのまま放置するとインフレが忍び寄ってきてるんですけどどうしましょうという事態となり、中央銀行は今週はじめ利上げするのかと先週言われていたが言われたと同時に、多分今回は見送りとも言われ、実際その通り見送られた。

見送れた後の論調では、確かにインフレ懸念は強くなってる。中央銀行の予想を上回って推移している。が、しかし、一方で、例えばここで利上げをした場合、住宅ローンに問題が発生する懸念もある。さらに、一部で言われているのは、アメリカの様子が景気減退の方にずるっと行った場合にカナダ経済が引きつられる可能性もあるだろう、だからここで一気に引き締めの方向に踏み出すわけにはいかないのではないのか、といった点から今回は見送ったのだろうということだった。

中央銀行は結局何もせず、だったが、市中の大手銀行は住宅ローン金利を引き上げたようなので、それはそれなりにこの結果がしばらくしたら返ってくるかもしれない。


で、そのカナダドルだが、30年間で一番高いと表現されている。それはどういうことか。

さかのぼること30年前の1977年というのが米ドルvsカナダドルの価値が1対1のあたりで均衡していた最後の年ということのようだ。
戦前のことはわからないのだが、1957年がカナダドル史上、対米で最も高い値がついた年で、その後の20年は、徐々にカナダドルが下がってきて、1977年で均衡、その後もカナダドルは下がり続け、2002年に最安値を付け、そこからまた盛り上げて今に至るということのようだ。


ちなみに各到達点は、
最高値 1957年8月21日  1カナダドル=1.0614 米ドル

ほぼ均衡 1977年        1カナダドル=1米ドル

最安値 2002年1月21日  1カナダドル=0.6179米ドル


現在値 2007年5月31日  1カナダドル=0.93近辺、


なので、50年サイクルぐらいで見ると大きな山と谷のあるチャートになるんでしょう、きっと。
以上のデータはバンク・オブ・カナダのサイトで見たのだが、チャートはなかった。作ってくれたらいいのに。


そういうわけで、確かに足元の経済の問題としての通貨という意味の方が誰にとっても大きな問題ではあるだろうけど、少なからぬカナダ人にとってはもっと意味がある問題になってるようだ。

1950年から70年代というのは、日本も上り調子の時代だったが、カナダにとってもとても気分のいいものだったようだ。カナダ版のプロジェクトXもどきをヒストリーチャンネルで見たことがあるのだが、基本的な大規模土木工事というのはその時代に行われたようで、そこに出てくる人たちの壮大な感じというのはまさに確かに日本で見る高度経済成長期の人々みたい、いやそれ以上かも、という具合だった。広大な国土の運河というか水路の整備なんかがテーマになっている番組を見たのだが、いや、すごかった。で、トロントにあるCNタワーは、その最後尾の建造物といっていいかと思う。やっぱり東京タワーと同じ位置か。

で、その時思ったのだが、高度経済成長期という経済が成長していた時代だから人々はあのように元気があって、なんでも挑戦していく気風があって大きなものを拵える気になった、と通常考えられてきたが、これって、それだけではなくて、戦争体験が実に色濃いということなんだろうなど思う。番組の中で、設計者だったか工事のディレクターだったかが、俺たちは戦争に行ってたわけで、それに比べればこんなの、と笑いながらさり気なく言っていたのだが、そういう、それに比べればというネガティブなモチベーション、ではないのだろうな、と私は思った。

つまり、戦争というのは最終的なミクロのところでは人と人との殺し合いのシーンになってしまうが、ゲリラ戦しかしてないところは別として、全体としては大規模シビルエンジニアリングだ。

で、そこでみんなでデカイものを作るある種の(言葉は不適切なんだろうが)快感、達成感を醸成され、共有された。それが後の大規模シビルエンジニアリングに向かわせるドライブフォースでもあっただろうし、同時に、その体験者が多ければ多いだけ、みんなでがんばる感触が共有されているわけだから、作業を支える重要なモチベーションとなりえたんじゃないか、など思ってみたりする。


と、そういう時代に向かっているというわけではないけど、そういう時代のカナダを知ってる人は今頃なんかこう、やむにやまれぬノスタルジアに浸ってるんじゃないかと思う。


気分としての個人的には、1カナダドル=1米ドルになった場合に、どういう騒ぎになるのかを見たいので、このまましばらく行ってほしい。

しかし・・・・実質としての個人、としては米ドル支払いが多い業種で働いているので、実はものすごく、あああ、困った、という気分が本当。ただ、もう去年ぐらいから1対1だと想定しているので実際の困惑は特にない。

私が生きてる限り最高値のカナダドルになってるから、外為相場を張ってるわけではない私としては悔しいといえば悔しいので、記念に(実利ももちろんあるわけだが)日本に送金してみようかとか、T/Cを買っておいて今度帰る時にささやかにホクホクしてみようか、ぐらいは考えている。手数料を考えても、2年ぐらい前からすればプラスになるぐらいにカナダドルは上昇してる。


あ、日本の人でいまだに、1カナダドル=70円ぐらいの感覚でお話をされる方がいらっしゃるのが気になるところか・・・。今113円近辺ですので、全然違いますです。お気をつけていらっしゃいませ。


そういえば・・・。10年ぐらい前、年金を持って海外で暮らそうというのを日本のメディアが盛んにあおっていたことがあったけど、その時にカナダに来た方とかはどうしているんだろうか。


やっぱり通貨の推移は広範囲の人々に影響をもたらすんだなと改めて思う。


[捕捉」
NY市場 ドルカナダ 一時1.06割れ、市場では年末までに1.00を予想する声も
http://www.gci-klug.jp/fxnews/07/06/02/ny106100.php