ちょっとしたこと(2)

レガノミクス、あるいは新自由主義のインストールによってアメリカは所得格差が拡大した、貧富の格差が大きくなったという説に対して、私は、それってなんか違くないですか、とおととい書いた。多分そうだろうと思いつつ特に調べてもいなかったのだが、はたと土曜日のお昼時のテレビで(テレビばっかり見てるみたいだが、実際この頃TVOというチャンネルにはまってる。テレビオンタリオという教育テレビ)、夏頃にあったレクチャーを流していた。グローバリズムの好意的な面を見ているエコノミストと、真反対に、この傾向はいかん、という労組の代表のようなアメリカ人のどっかの大学の先生なのかな、というプロフィールのおじさんの対論だった。


その中で、その先生おじさんが、何度も「ドットコム・ブーム以降」という言葉を言っていて、なんか懐かしい気がするなと思った。で、そう、所得格差がどうもならんほどに広がったと人々が騒いでいるのは、昔がどうのというより、なんつってもこのドットコムの時だったよなと思い出した。そう、クリントン時代。


で、まぁ、新しいテクノロジーが出てきて古い産業は人を必要としなくなってきてあっちでもこっちでも雇用が切られてる、こんなのってないじゃないか、3つも4つもいつ切られるかわからない仕事を持って生きる、自分の時間がない、こんなのってなんだ。そもそ仕事ってなんだ、仕事とはポジションだ、その仕事をしていけば自分なりの慎ましやかで豊かな人間的な幸せな(以下任意に)生活ができる、こういうのを追求すべきなのだ、と労組おじさんはいい、エコノミスト氏は、新しいテクノロジーが新しい仕事を作り出しているじゃないかと反論。

しかし労組氏がいうには、78年だったかそこらからで800万人、2000年からで300万人(この数字は聞き間違いかもしれないし、そもそもどういう統計なのか不明な言い方だったので、大きいという以上の意味はないと思って読むしかない)が切られてる、それに対してドットコムが生み出したのは300万の雇用にすぎない。全然あってない、と。


多分そうなんだろうなと思うし、それ以上にアメリカなんかだとよく知られているようにドットコムはモバイルOKなのでインドに仕事を持っていったりしている。さらには、そんなこというなら、アメリカの雇用じゃなくたっていいんですよね、とカナダに持ってきている仕事も大量にあるはず。


ある意味で、カナダはアメリカ人の雇用を奪っているし、それをイケイケドンドンで太鼓叩いているカナダ人はこの意味をどう捉えるつもりなのだ、ではあるんだがそこへの突っ込みはなし。


などなどこんな話を聞いていて思うのは、新自由主義問題、あるいは民営化がどうしたという問題って、一国内の部分的な問題だけでは解決できない問題だということ。国境を開けて人とモノの流れを煽っていて、その上で国内に制限を加えるというのは、できない相談ではないがリスクがあるということか。


たとえば、このレクチャーは夏のもので、この時点では、人々の生活がいくらかでも安心できるようなものになるための健康保険というのは大事で、だけどそれをアメリカのプライベートの保険だけでやろうと思うとそこが高騰した時に企業にしわ寄せがいって企業負担が大きすぎることにもなる。それに対してカナダはcitizenshipベースで医療保険、年金を持っているからとカナダ人は誇りアメリカ人はそれは絶対に正しいと言う、と。(citizenshipベースではなくて実際には永住権保持者相当ベース)。


が、しかし、まさにそれにもかかわらずということがここ数日起こっていた(だからこのレクチャーを今ごろ流したのかもしれない)。GMが不調だ、というその話の中にはGMがまもり通したある種理想的(とまでなのかどうか知らないが)、手厚い医療保険と年金に関する費用が大きすぎるというのが出ていた。


それに対してカナダではそれについてはアメリカとの比較では良好であったはずだった。が、そのGMのカナダの工場が雇用をカット。


ということは、カナダ人が言っていたそれは、企業がともあれ好調であることが前提で、その上でカナダ側に企業があることのベネフィットはこれこれですというのにすぎず、企業経済が悪化した場合にはどれだけ社会基礎があろうとも、関係なく最悪の事態は起こりえる、と。



さらにいうなら、このへんは私は結構冷たく書きたくなるものがあるが、そもそもカナダの企業じゃない企業を頼りに国内の雇用をカウントするというこの仕組みの弱さはどうしたものか、ではある。はっきりいえば、主要な要因はこの何十年間カナダドルは米ドルに比べて20〜30%程度安い時期がとても長かったことではないか。だから、どうやってもお得だからアメリカ企業は来るはずだ、と思ってなかったか? 思ってたと思うなぁ。そうでなかったら、あそこまでもここまでも、「反米」トーンを野放しにはできなかっただろう。


ちなみにこういう体制を、「オーストラリア式」とか言うらしい。強い経済のあるところではそこよりなんでも5%安くしておけ、そうすれば、この場合はドイツの企業が、必ず進出してくる、ということらしい。


一国内での社会施策がどうのというのは大事な問題なのだが、しかしその国の経済がどういう基礎で成り立っているのかはもっと根本的だし、もしそこが国境を開けておくことによってベネフィットを得ているのなら、反対の側の事情も考えないとなんないんじゃまいか、などとも思う。