テロ事件と長い影

ロンドンのテロ事件からもう10日。早いなぁ。トロントは昨日、今日は雨。ようやくひと心地みたいな感じ。カンカン照りの34, 35度の日が先週は続いていて、もうくたびれました、だった。とはいえ、東京、大阪からきている人々は、まぁでも熱帯夜が1週間続くわけじゃなしと、どこか淡々。毎年のことだが、やっぱこう、灼熱地獄とでももうしましょうか、ものすごい気候の中でもサラリーマン活動に停止がない、1か月バカンス取ったりという習慣はない、って人の強みってのはあるよなと思った。私は東京在住時代は7月最終週から8月1週はだいたい休みと決めていて、東京を離れることに腐心していた。耐えられない、と人でも殴りそうな気配になる前に退却、みたいな感じだったが、その2週間の休暇は取れる年もあればそのど真ん中に打ち合わせなんかあったりして(日本だとお盆の前にすまそう、が入るから)、なかなかままならなかったし、今もそうだ。で、この休暇体制が不便なのは、そうすると旧盆の時分は私としては稼働体制なんだが、出版、印刷関係、製造業関係はもれなくお休みをとる人が増えるため、なんか仕事が進まないというケースもある。ってことはみんな一緒がいいってことかと思ったりし、しかしなぁと思ったりなかなか複雑だったしこれも今もそう。


と、1週間たって、このテロ事件について、マーケットの馬車馬さんが、興味深いエントリーをされていた。


「問われるべき責任」
http://workhorse.cocolog-nifty.com/blog/2005/07/post_ba90.html#more


慎重に筆を進めてらっしゃる馬車馬さんの意図をこっぱみじんこにしてしまうようで申し訳ないが、要するに、日本のメジャー新聞各紙のテロ事件に関する社説が「結局、普段からこついて考えを蓄積していないから、中学生の作文レベルの代物を新聞紙面で垂れ流すことになるのだろう。」というお話で、その対比としてFTの論説などを引かれていた。


これ自体に私はまったく異論はないのだが、なんというか、私としては、普段から考えてないから、じゃなくて、普段から別のことを考えているからこういう時には、お茶を濁す中学生の作文、つまり、まぁ教科書にありそうな文言以外に語れるものがないのではないか、など思ってみたりもする。


というのは、テロを引き起こす犯人たちを、その母集団と考えられる民族集団から切り離して考えられない人がいるんだろうということ。つまり、テロの犯人たちというのを、テロを起こすそのこと自身で断罪できる心理的枠組みを持っていない人が日本のマスコミの中にいるんじゃないのか、ってこと。


テロを引き起こす人々とは、全体としてのムスリムとは違うんだ、という時何がこれを分けているかといえば、それはムスリムの中での過激派と穏健派ともいえるが、クライテリオンは、テロを引き起こす人々とそれ以外とも言えるだろう。で、後者のクライテリオンがムスリムか否かよりも優先されるから、堂々と、テロを引き起こす人々を断罪できる。が、この優先順位が曖昧だと、ムスリムにも言いたいことはあるんだし、やっぱり欧米の無茶が・・・と来て、むき出しの武力だけではテロを抑え込めないどころか、はびこらせる結果にさえつながる云々、が落としどころとして採択される、と。


むき出しの武力とは、つまり、今般の事情でいえば、アメリカが始めたイラクでの戦争のことを言いたいのだろうが、テロ事件にこれを接続することは、イラク人全体を無意識、無条件に、テロリストの仲間を支え得る人々にカウントしてしまう意味にもなる。それはおそらく一般的なムスリムの見解とはとても思えないのだが、わりと不用意にそう言い習わす人々が存在し、日本のマスコミの中では結構普通のことのように見られている節もある。


で、そりゃそうだろうかな、など思うのは、やっぱこう、なんつっても、「東アジア反日武装戦線」なんていう組織が存在していた国だからかということ。


日本とテロというのは、今現在で考えると、オウム事件ぐらいしか思い当たらないような「錯覚」に陥るし、この10日間の日本のブログを見ていても、テロ事件というのが、どこか遠い話で、それが引き起こされるのは、やっぱ欧米が無茶だから、ぐらいの調子で書かれている人が少なくないように見える。しかしつい30年ぐらい前まで日本というのはむしろテロの輸出国だった。


私は、テロというと、どこか頭の隅で、三菱重工ビル爆破事件を思い出す。といっても子供すぎて具体的に覚えているというわけではないのだが、なんか凄いことが起きたという印象は鮮明にあって、大人になって大手町で働くようになって、その周りをお散歩がてらいろいろ歩く途中で、ある日三菱重工ビルの前を通った時、ああ、ここかと思い出したのははっきり覚えている。


日本赤軍東アジア反日武装戦線
http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/nihon.htm



テロ事件に関して日本のマスコミの論調が浅薄なのは、どこかすっとぼけているような顔をしつつも、実際にはこのへんの事情を、頭で整理できないだけでなく、感情的に整理できていない人が、大雑把には日本全体にかもしれないが、個別には(そして大事なのはそこだが)、マスコミで「健筆」を誇る人々の中に少なくないからではないのか、と思う。