リベラルがいなくなってたのよね

カナダ政界の政変は一応収まった。なんせ議会を休会してるし。とはいえ、その余波は続いているし、年明けにどうなるかは一応未定。一方で、ふと、日本の政界のごたごたとの共通点みたいなのも結構あるなぁとか思ったりもする今日この頃。


カナダでは、野党3党が、総選挙から7週間しか経った12月第一週、連合を組んで与党を引きずり落とそうとしたのだが、現状総督の判断によって中断。野党3党は、与党は過半数の支持を得ていない、理屈的には野党全部あわせた方が多い、だから俺らの言うことが聞かれるべき、とか言っている。

しかしでは、民衆の支持なるものがそれら野党連合にあるのか、となるとかなり微妙で、というか、ぶっちゃけ、一部関係者以外になさそうだと言っていい感じ。


人々のいわく、前回の選挙には、野党連合は存在しなかったのだから、野党連合に支持などない。
あったのは、敗者となった個々の野党だ、敗者を3つ重ねても敗者だ、ってなところ。新聞のコメント欄を読んでいたら、第三世界のようなことをしている、なんて恥ずかしいと書いているのがあったのだが、要するに、政変を察知し、カナダ人が身構えたという感じもした。私はこれを普通だと思う。


この動きはしかしながら、多少微妙な問題を今後に残すだろうとは思う。
というのは、ここは渾身の小選挙区制、渾身のマジョリティ主義みたいなところで、比例配分的なアイデアを拒否し続けている。

これと、連立政権というのは別の話ではあるけど、底流は似たものではないのかと思う。つまり、民意を反映させるというアイデアに非常な重きを置くと、連立、比例配分型を組み込んだ選挙が是とされる。一方で、小選挙、単独政党のマジョリティこそ政権という主張は、代表者=運営責任者を決めることに大きなバリューを置いているんだろうと思う。

で、これまでのところでは選挙制度を改革しようという話は、出ても消えていた。3年ぐらい前、左派のテレビで、比例配分のメリットについて語っている番組を見たが、今思うと、もしかして、単独覇権を取るのは難しいことを見越して、連立政権をなじませる努力をしていたのか?とちょっと思った。


いずれにしても、もしここに変化があるようなら、それは多分コモンウェルス的大問題だと思う。大陸への譲歩(あるいは敗北?)みたいな。ま、ないと思うけどね。



現状のその後は、一番大きな野党で、昔から連邦政治を握ってきた立派な党であるところのリベラルは、そうこうするうちに、内輪もめがはじまった。とにかく、あのリーダー、ディオンを下ろせという声が高まった模様。見てる人にとっては何をいまさら感しかない。なにせ、首相になってほしいか、ふさわしいかみたいなアンケートではほぼ一貫して、常に、非常に高い不支持率を誇る人物なのだもの。私はこのブログでも、何度も何度も書いていると思うんだけど、どうしてこの人をリーダーにしようなんて人々がいるのか理解できない。負けに行ってるようなもの。


昨日出てきたアンケート会社のアンケートで、リベラルの党首がA、B、Cそれぞれの場合で、与党に入れるか野党に入れるかをたずねていたが、予想通り、

ディオン党首のリベラル vs 保守党 = 42 vs 22
イグナチアフ党首のリベラル vs 保守党 = 38 vs 33
ラエー党首のリベラル vs 保守党 = 41 vs 26


なんて結果が出ていた。
マイケル・イグナチアフというまたまた学者、しかも米国居住暦が長すぎるおじさんが果たして強い党首になれるかのかという問題は別として、支持率にして、22と33という大きな違いがある。


今までだいたいそうだろうと思われていたものが、政変をきっかけにますますはっきりしたために、ここ数日はディオンを変えるべきじゃないのか、とリベラル内で騒ぎになっていて、一般人からは、野党連合はこの男を立派なリーダーだと言って国民に推薦しておきながら、やっぱりこの人だめだしね、リーダーを選ばなくちゃ! とか言い出すわけね、とあきれられ、顔洗って出直せ常態。


ちなみにラエーという人は、昔はNDPだった人で、オンタリオ州民は普通にまったく信用していない人と言っていいらしい。というのは80年代にNDPに政権を取らした結果を厳しく拒否しているから。いたずら小僧がまた騒いでる、みたいな感じで捉えられている模様で、そういう人がなんでだかこの間にリベラルに入ってきて、党首選挙に名乗りをあげたりしている。


ぶっちゃけ、2004年、5年、6年あたりで、昔の右も左もいる、結果的にかなり同床異夢的だが大きく全国から支持を得られる党だったリベラルという党は、左派に乗っ取られてしまった、というのが一般的な評といっていいと思う。


私としては、そうも言えるけど、常識的で理性的で、権力闘争しか目にないとか支持団体が特定だ、ってな人でない人々に逃げられたという方が正しいような気がしないでもない。


そうやって逃げた、または追い出された中の一人、ジョン・マンリー氏が、昨日、グローブ&メールに寄稿して、リベラルはともかくまずリベラルは内輪の問題を解決して、ディオン氏は退却すべきだと言っていた。

The first Liberal step: Replace Dion


ジョン・マンリー氏は、2つ前の強かったリベラルのクレチェン政権で副首相をしていた人で、本当に人気のある政治家。右も左もなく、この人は理性のある、冷静に条理を尽くすちゃんとした人という評価を得ている。


個人的には、この人がリベラルを去った時点で、この党は一筋縄ではいかないことがあるのだと思ったし、今もそう思ってる。マンリー氏は、しかも、2回だったかリーダー候補になってくれと請われても、断っている。今回も、連立の経済アドバイザーになるとかいう噂について否定している。


つまり、これは、上級というかA級リベラルがこの連立を支持していないことの表明なんでしょう。駄目押しみたいな。


で、氏の投稿の下に、コメントが600ぐらいついているんだけど、これって過去最高に近いぐらいの数じゃまいか? カナダ的にはとても多いと思う(だってカナダの話題に他の国の人参加しないから)。


でもって、ざっと読んだけど、同じこと考えてる人が結構多いんだなぁと意を強くしたりもした。ようするに、こういう人にこそいて欲しいのに! と思ってる人が本当に多いのだなと改て思った。

A級リベラルはみんないなくなった、残ったリベラルなんか支持するわけにはいかない。私はずっとリベラル支持者だったが、今の面子がリーダーシップを取らなくなるまで、どこまででも保守党に入れるとまで書いてる人もいた。
気持ちはとてもよくわかる。私もカナダ人なら同じことを言ってるかもなぁとか思う。A級リベラルの人たちの話は、最終的に支持できずともきちんと聞こうと思うし、聞く価値があったと思う。


右派というか保守党は特に悪いってわけではないんだが、物事の考え方のスマートさとか、知力、理性、展開力みたいなのはあんまりないわけで、とりわけ外交、交渉みたいなところでの言辞に問題があると思うんだなぁ。これがロシアならそれでいいだろうが(実際には彼らの言語能力は非常に高いわけだが)、カナダみたいな小さくて、大国の隙間に立たされがちな国は、リベラル(党派じゃなくて)であることを切々と説くというところにバリューを求めないと辛いと思うんだな。なんといってもカナダとは、the Westの中の世界調和型実験モデルなんだから、リベラルで、調和的に人権を大事にしていく国というのをどこまでも標榜しなけりゃ価値ないじゃん!だと思われ、と私は思うわけざます。

ま、外務官僚が利口ならOKなら持つってのも本当だろうが。


そういうわけで、とにかく、カナダの政変未満の動きは静まったものの、リベラルまわりの混乱が今後も続く見込み。年明けまでにリベラルが起死回生のまとまりを見せるとか、目を見張るような予算案をシャドーキャビネットとして出してみるとかいうなら話は別だが、それ以外ではハーパー保守党政権の支持率が下がる見込みは、政変前よりも減少したといていいでしょう。前回も書いた通り、むしろ、野合の連立を叫ばれるぐらいなら、とりあえず防波堤を高くするみたいに保守に入れるといった傾向もなくはないように見えるので。

(そうであるなら、慎重なハーパーはこれら悪戯者たちの動きを察して、やらせたままにした、釣りとして政党助成金削減、一部公務員のスト権凍結、みたいなことを言い出したのではないのかという説も語られる。そこまでするかぁ?とは思うが、そのぐらい考えてそうなのがハーパーだというのは衆目の一致するところっぽい。)


どこまでも強いのかハーパー。