法人税と個人消費

法人税を下げろとの論があるが、結局そんなの駄目だという朝日の社説を読んだ。

 税金が下がれば競争力は増し、企業活動が活性化すれば税収が増え、働き手の取り分も増える。そんなシナリオを描いている。

 だが、今の日本経済の最大の弱点はぱっとしない個人消費にある。一方、大企業の方は元気満々といっていい。この9月中間決算で、東証1部上場企業は4期続けての増収増益を記録した。

 最近の企業は、もうかってもさほど賃金には回さず、内部留保や株主への配当積み増しにあてる傾向がある。法人減税が消費拡大につながる保証はない。

http://www.asahi.com/paper/editorial20061203.html#syasetu1


そこでインカムトラストですよ、と発想したのがカナダだった、ということなのかな(この経緯の議論を私は知らないので)。
インカムトラストという法人税優遇措置という解釈でもいいんだろうし、オールタナティブと考えてもいいような気もする、法人税でもっていかれるんなら、キャッシュフローのうちの高い割合を投資家に直接リターンしちゃましょうという仕立てて。

朝日が言うように個人消費の伸びがしぶんいんだものというのならこういう手法は考えられていいだろう。

が、しかしこれは政府にとっては、あれよあれよというまに法人税として直接政府に来るお金は減っていくとも言えるので、政府としてはトラストの割合があまりにも大きいというのも、もし可能な限り政府は小さくに決まっておろーが、それでやっていける、あるいは税は個人単位が基本だという覚悟がないと、手放しにはできないのかなという気は一応する。しかしトラストを組むのも各種制限と手続きワークが必要だしどこでもできるとは限らない。第一市場の人気がなければ誰も買ってくれない。


と、朝日さまの指摘はいいとしても、解決法を詰めて考えていくと実は、では法人税とはなんなのか、また、税を負担する単位はどういうのが望ましいのか、というフレームワークの問題に行き当たるのではないのかと思う。

ま、ぶっちゃけこんなに貯金しようが何しようが利息がつかない時代が長ければ、個人消費にかげりがあるのは当然だというのが大前提だとは思うが。現実の収益、損失だけではなくて人間の心理から、お得な感じ、がなくなれば消費傾向は、よほど破壊的性向の人でない限り控えめで、えらく計画的で、つまりちょっといいかとお金を使うという傾向がなくなるのは理の当然というより、情理の当然なんじゃないか。


法人税に戻って、思い出すのは、つい先日読んだグローブ&メールの記事。

Corporate income taxes are the most destructive of taxes. They reduce investment. They reduce economic growth. They reduce jobs and wages. They are regressive, hidden in the prices of the necessities of life.

http://www.theglobeandmail.com/servlet/story/LAC.20061129.REYNOLDS29/
TPStory/Business


法人税は最も破壊的な税だ。投資を減らし、経済成長を縮小し、仕事を減らし賃金を下げる。日々必要な物品の価格に隠された対抗的な税だ、と、コラムニストはそう言い切ってましゅ。

こういう論が出てくる背景は、カナダはとりあえず上手くいってはいるものの、法人税は依然として高い水準にあり、それを抜本的に立て直す代わりに上のインカムトラストなんかが出てる、これはこれである種行きすぎという解釈もなくはないだろうから、そうするんじゃなくて、抜本的に法人税を考え直せ、という意図でこうした記事が書かれているんじゃないかと思う(G&Mはそんなに過激な新聞ではない)。



インカムトラストがどのぐらい個人のカナダ人に買われているのかわからないが(外国人が税の優遇を狙って買っていたというのはよく聞く)、とりあえず、これに限らず投信はほんとによく買われている事実はある。

その一つの理由、あるいは受け皿は、別に投信じゃなくて定期預金でもいいけど、それを毎年の収入の一定限度額を非課税にして老後に備えさせるという、ある種強制貯金、強制投資の仕組みがあるから。なんといっても所得税が安くないところなので、これで毎年いくばくか非課税になっていくのはうれしい(引き出す時払うにせよ)。これがあるから、どうあれ経済は少しづつでもいいから成長しないわけにはいかないというのが個人の人生にきっちりビルトインされていると言っていいだろう。


もちろんそんなにきっちり上手く貯金できている人ばかりでは全然ないにせよ、基本形は固まっている模様。
毎年年度末になると、この非課税枠の貯金(RRSPという)の締め切りですよ、買いましたか、買いましたね、今ならまだ間に合いますよぉおと騒ぎになり、たまたまその締め切りの週にある銀行に立ち寄って気がついたのだが、銀行が営業時間を拡大してお客を迎える体制にしていた。本気だな、としみじみ思った。


毎年確定申告すると、申告受け取りましたよ間違ってませんよ、のお知らせが来てそこにあなたは来年はいくらいくらまでRRSPの限度額があります(または使い切ってなければ合計で限度額はここまであります)という額が提示される。また、投信の方にも、RRSP適格かどうかの区分がある。



直接関係ないけど、そういえばカナダドルの対円が下がったきっかけは、インカムトラストの税制優遇措置をカナダが見直すかもよと発表した時だったような気もする。1ヶ月前ぐらい。多分見直されるけど来年すぐじゃないし、それはちょっと騒ぎすぎだったのではなかろうかとそう思う。ただ、対円が急上昇という地合いではないんでないの、チャートも含めてとかは思う。カナダが先行きをどう読むんで対策たてるつもりなのかがいまいち不透明なところがあるし、そもそも隣のランディングの心配があるかぎり独立的には対応できないし、というところか。