毛沢東神話と戦う


『ワイルド・スワン』の著者ユン・チアンがテレビに出ていた。
http://www.tvo.org/cgi-bin/WebObjects/Microsite/?b?7913321129939200000


春先に発売になった著書について、TVOというオンタリオ州の、なんといえばいいだろう、半分教育テレビみたいな局のニュース番組の特集コーナーに、歴史家である夫と一緒にインタビューに答えるという仕立てで20分ほどだったろうか話していた。インタビュアー、この夫妻と3人ともものすごくしゃべって聞いてる方の耳が痛くなるような(テレビの前でそんなことはないが)感じだった。テーマはもう、そりゃ、毛沢東について語られていることは本当でない、神話だということ。


たとえば長征が神話化されているわけだけど、それはスターリンが確実にした出来事だし、中共チャイナはソ連がなくてもできたんだというのは神話だと言い切っていた。もう一点、従来チャイナは世界征服みたいなこととは関係ないように考えられてきたけど(インタビュアーがふった)、そうではない。ユアンも夫君歴史家氏も自分たちも考えてはいなかったが、そういうことではないのだ、軍事力のスーパーパワーになろう、支配しようというモチベーションがあった、朝鮮戦争に入ったのも、ニクソンに会ったのもそうしてみれば理解できる、と。


ミリタリースーパーパワーになるという話の表裏として、農民(ペザント)のことなんか毛沢東は気にかけてないし(農民が餓えようとも武器を買っていた)、マルクス主義は彼にとっては道具の1つだったでしょう、そもそも平等なんて馬鹿げた考え方だと言っています、とあった。

さらに、彼のキャラクターとして独自といえば独自ではなのかと印象付けていたのは、ヒトラースターリンも暴力を使うが、マオはそれを公開する、人の間で、肉親やら妻やら子供やらの前で見せる、という話。この感じと、ユアン氏が語る文化大革命時代に、糾弾された人が町を引きづりまわされて、つばをかけられてという話は呼応する。西洋人にすれば、魔女裁判風なんだな、という感じだったか。


文化大革命中にユアンが「裸足の博士」になっていたが、裸足のということはなんのトレーニングも受けないという意味、本を読めば読むほど馬鹿になるとマオは言っていたから、というのも、小さなエピソードではあるし短文ななが、ものすごく「暗い」インパクトがあった。暗愚。


これらのことは、本の内容の通りではあるらしい(私はこの800ページを超える本を読む元気がないので未読)。日本のアマゾンの書評欄に書いてらっしゃる方がいらっしゃるのでご参考までに。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0224071262/qid=1129950492/sr=1-2/ref=sr_1_10_2/250-5607070-2557029



私としては、興味深かったのは、カナダのインタビューが、ニューヨークタイムスは、彼が死んだ時の死亡記事(orbituary)で、チャイナの愛国者、闘争的な革命家、熱心な伝道者にしてマルクス主義者、兵士で政治家で詩人・・・・と言ったわけだがどう思うか、と問うた時の彼女の表情と答え。


もちろん、それは本当ではないと言って、その後で、自分がヨーロッパに出た頃、こういうのを自分の目の前で聞きたくなくて、人々が高らかに歌う歌なんか聞きたくなくて、チャイニーズと言わず、サウスコリアンだと言っていたこともあるのよ、だそうだった。



と、要するに、そういう時代が確かにあったということなのだなぁと、2005年にこれを聞く私は、NYTがすんごいこと言っていただけでも(予想できることではあるが)うわぁだったのだが、そういうことではなくて、世界中のかなり相当の人々が、マオに対してめっちゃ肯定的どころか、素晴らしいと喝采をあげるという時代があったのだという点を再確認させられた。


で、ロシアはスターリンのほんとのことろを知ったわけですが、チャイナはどうですか? に対して、ノーと夫妻が答える、というところで、上の時代は実際まだ終わってないというのが今日的な困惑ではあるよな、と私は思い、インタビューは終了。


そして、なんとその続きで、では今日のチャイナはどうでしょう?と、チャイナの人権についてのなんだかエライ人が出てきて、インタビュアーと一問一答していたが、これはまた後で。


で、その死亡記事、あるはずだなと思って検索したらヒットした。


インタビュアーが読み上げたのはこの前半部分。

A Chinese patriot, a combative revolutionary, a fervent evangelist, a Marxist theorist, a soldier, a statesman and poet, above all Mao was a moralist who deeply believed, as have Chinese since Confucius, that man's goodness must come ahead of his mere economic progress. Like many Chinese of the past 100 years, angered by the insults of imperialism, he wanted to tear China down to make it stronger. He envisioned creating in China an egalitarian, revolutionary utopia in which mass enthusiasm provided the motive force.

http://www.nytimes.com/learning/general/onthisday/bday/1226.html


記事自体は、とても長い。
ざっと見たところ、私には夢みたいだ。記念に読んでおこうとは思う。


日本での発売予定は?と思いつつ、googleってみましたがよく分からず。
この本の概要がよくまとめられているのではないかと思われますのでおすすめ。サイト主さん、御借りします。


毛沢東関連書籍」
http://a340.oops.jp/aws/pickup/mao.php