私たちは政府ができないことをやろうというわけ


いつもの通り、非常に有益なものをタダで読ませてもらってすんませんと思いながら、溜池通信さんのレポートを拝読。

Report「カトリーナ台風の衝撃」
http://tameike.net/


で、様々な根拠を列挙しながらブッシュ政権の行く先を非常に憂いていらしたのが印象に残った。

昨年11月2日の選挙で大勝し、「この政治的資源を使う」とまで言っていたブッシュ大統領は、今や断崖絶壁に立っている感がある。ブッシュ大統領の任期は、いちおう2009年1月まであるわけだが、最悪、長いレイムダック化も想定する必要はあるだろう。筆者が見るところ、ブッシュ政権は過去最悪の事態を迎えていると思う。


そうかもなぁとも思えるんですが、しかし、私としては何かそうは見えていないというのを書いておこうかななど思って筆を起こしました。といっても今後の対応を間違えば新たな危機(政権にとっての)を呼び込む可能性は常に大ではありましょうが。


と、ごちゃごちゃいてますが、基本的に今回の災害は確かに、各レベルの政府のめちゃめちゃな対応が、なくてもいい混乱をもたらした。初期に、半分以上、こんなことってあるわけないよなとは思いつつも、カナダ軍を投入しろ、こういう力と秩序を最初に提示するのが最も効率よく秩序を維持するのに役立つはずだとの思いから雄たけびを上げていた私ですが、実際結果的に必要なことはそういうことだったと思うんです。

FEMAでもなんでもとにかく秩序維持、不測の事態を起こさせないための実効的な力のある組織が真っ先に入っていれば、武装に関する混乱とそれに対する恐れは収拾できた可能性はあるっただろうし、その秩序に乗って他の部隊(軍って意味に限らず)が投入される、という展開が可能だったかと思う。

結果から考えらえば州レベル以下の地方政権には、危機管理能力はなかったに等しいといってよかったかと思う。少なくともリーダーとかプロとかじゃない。だから、なおさらここに頼らないフォースが必要じゃないか、などと言ってみたくもなるんだが、アメリカでそれが可能なのかというのはかなり異論があるだろうと思う。ホームランド・セキュリティ省の権限の問題だよね、これ。

また、CNNとかNYTはさんざっぱら連邦政府、というよりブッシュ叩きに余念がなく、取り残された黒人、あいつらは来ない、みたいな論調を作っていたが、現実的に一つ一つ論証していったら、連邦政府批判だけではすまないと思う。地方政権が機能してはじめて連邦と連絡が可能になる仕組みだから。


アメリカの連邦軍って、歴史的に実際南部にしてみりゃ敵だったことありまっせというのもあるけど、今でも、連邦の存在というのは日常の事件に際して最初から組み込まれたものというのとはちょっと違う。日本で、自衛隊が福岡県に行くのとはわけが違う。ちなみにカナダとも若干違う。カナダは(当時はイギリスだが)、この州の権力があまりにも強いアメリカの連邦の組み方を嫌って、州と連邦で話が合わなかったら連邦の判断が優先されまっせという形になってる。


で、その中でもチョンボが大きかった(というより、能力あってないだろうが、と私はまだ言う)FEMAのブラウン氏は更迭の見通し。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/4231170.stm


この対応はブッシュ政権にとってOKでしょう。傷口が小さいうちに。で、次から次からといくかとなるとそれよりも地方政権、ルイジアナ上院議員州知事ニューオリンズ市長(この順番にマシだった)が、無傷ですむわけはないだろう。

 実際問題として、民主党の地方行政を批判している共和党の議員達からは、今回の事態は地方政府には任せておけないから、誰か有能な人物に全権を掌握させて危機を乗り切るべきだという声が上がりました。2日の金曜日には、具体的な実名として、ジュリアーニ元市長に加えて、兵站のマネジメントに練達したパウエル前国務長官や、フランクス前イラク派遣軍指揮官などの名前が挙がっています。その動きを察知してか、ランドリュー議員までが「閣僚級の責任者を置いて欲しい」などと言い出しています。

http://www.asyura2.com/0505/bd40/msg/865.html


アメリカ民主党対日管理班ではないかといわれて久しい(一応冗談;;)冷泉氏がこんな具合に書いてらっしゃいましたが、この時系列のはっきりしているレポートはとても貴重です。
で、対日管理班がこれだけ冷静に詳細に書いているのに、そのつながりの日本のメディアがまったく現実を無視して創作文学に走っているというのは興味深い。いや脱線だが。



全体としてみて、これはブッシュ政権の危機というより、アメリカの危機として国民には映じているのじゃないかと思う。

となると、こういう時のアメリカ人は一方だけを無闇に叩くという行動をいいことだとは取らないだろうと思う。

さらに、助けている人や組織が現実に存在し、そういう人々の努力の集大成を無視にしたような発言、たとえば、俺らは取り残されている、みたいなのは一般的に是認されないし、リベラル系と呼ばれる著名メディアがたとえどれだけ書いても、一般人のリアクションは違う。

で、私が聞いてるラジオ(カナダのラジオのはずなんだがアメリカ人とカナダ人がよくいいあってる)とかでも、ブッシュ批判というのは少なく、アメリカどうしちゃったんだ、というのと、いいや白人にはジュリアーニがいたが黒人にはいない、え、それは黒か白かの問題にしたいのか、おまえ、いやいや白か黒かじゃない、あれは貧しいか金持ちかの問題だ、じゃあなんでブラックには貧しいのが大いんだ・・・。とですね、激しくバトルしてましたが、これって、もしかしたら、危険なトークに思えるかもしれませんが、実際には人々が日常生活で話題にするところの話題ではあるわけです。だから、この点について実際大して大きな動揺を全国的に引き起こすことはないのではないのか。実際、アメリカ在住の友人と話した限りでも、ブッシュ批判ではじまったとしても、最終的には、これっていつもの構図ではあるのだ、ため息、みたいなことになっていた。

つまり、国内ではブッシュ政権叩きといのはメディア上には存在しているものの、実際にはそれほどではないのでは?など思う。


逆に、民主党はしっかりしないと、一方の地方政権側の民主党員たちの失態というか、能力の低さ、少なくとも対処できていなかった点の方が実際には大打撃かもしれない。上に書いたように連邦との連絡の問題もあるし、普通の国民にとっての日常の最終的な責任者って州だから。


Authorities encouraged by lack of bodies in New Orleans
http://www.theglobeandmail.com/servlet/story/RTGAM.20050909.wkatrin0909/BNStory/International/

ニューオリンズ市長は、死者は1万人にのぼったとしても不思議はない、大変なんだ、それなのに連邦政府は何もしてくれない、兵隊を出したって?いつだってんだ、ついてから言えよ、みたいなものすごい騒ぎをしたわけだが、おそらくそんなにはいない。かなり市長の予測を下回っているだろうという記事。もちろん良いニュースだ。


で、同じ話を伝えていたNYTが長くて詳しいのでこっちに移ると、
http://www.nytimes.com/2005/09/09/national/nationalspecial/09cnd-storm.html?pagewanted=2
そのナギン市長は、テキサスのダラスを訪れていて、結構感激している模様。ダラスの人たちが気持ちよく迎えているようだ。

で、このダラスの市長がなかなかで(名前からすると女性)、ダラスのシェルターに来てる避難民は10日以内にアパートに移ることになってます、と言っている。

で、

"There is so much chaos and dysfunction going on with the federal government, that Dallas can't wait any longer for federal help," said Mayor Miller. "Where is FEMA national? We keep being told that help is coming and so far we're not getting the help. So we will do what the government can't do. We will take the 1,500 people sleeping on cots and air mattresses and move them into apartments with beds and furniture and sheets and towels."

連邦政府はものすごく混乱してるは機能してないはなので、ダラスはもう連邦の援助を待たない。FEMAなんてどこにいるのよ? 私たちは、援助は来てる最中なの、でもこれまでのところでは私たちのところにはない、って話続けてるの、だからね、私たちは政府ができないことをやろうというわけ。1500人の人たちに、簡易ベットやらマットレスに寝せとかないでベッドと家具とシーツとタオルのある部屋に移ってもらおうとしてるの。


ということらしい。
ものすごく、アメリカ人が好きそうな話だ。あざとい言い方だが、ツボにはまってる。で、この類の話はもっとありそうだ。


で、蛇足ながら書くと、この説話は決して、反政府、政府憎し、ではないでしょう。どういう事情であれそれはそれとして私は私ができることをします、という自主独立の意地みたいな感じで、これは間違いなくアメリカ人には好感される。つか、これがこの混乱大国(そう、実際そうではあるのだ)の根幹だろう。


そういうわけで、全体基調としては、これは私たちが対応すべき災害、がんばりましょ、なのではないのか、つまりブッシュ批判に到達しないのではないのか、と思う。

ま、メディア上政府批判が走り続けるというのはあるでしょう。また、これでは積み残した問題はそのままですか?ではあるんだが、それは私の問題意識であってアメリカ人のじゃないから、そこを区別して観察して考えてみると、アメリカ人的にはアメリカ人的な解決法が見えてきちゃった、みたいな感じではないかと思う。


むしろここで、批判のための批判を展開などしようものなら、じゃあお前ら助けに行けよ!になると思う。メディアと民主党。そうでなくてもまったくエリートは、と言われ続けて百万年なのだから。


U.S. thanks Canada for relief efforts
http://www.canada.com/national/nationalpost/news/story.html?id=f69f6047-3044-4187-a25c-ea60851b70be

カナダのヘルプだけでなく、世界中からのヘルプにブッシュ氏が謝辞を述べている。これもなんのかんのといって、主にライス氏が利口だったことに端を発しているとはいえ、ブッシュ政権にとって悪い題材ではない。

In this time of struggle, the American people need to know we're not struggling alone," Bush said in Washington during the swearing-in for Karen Hughes, the State Department's new undersecretary for public diplomacy.