コソボというきっかけ。多分。


日本にとって直接のステークは何もないし(多分)、完全におめでたくて、完全に独立に値するほどの実力をその独立主体が有効に有している、という状況ならともかく、欧州頼みの、いわばEUお預かり、を独立と呼んでいるという状況なんだから、むしろ最後の最後まで精査してます、でいいのじゃないのか?など思った。


日本、国家承認へ 町村官房長官表明
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2008021802088517.html

町村信孝官房長官は十八日午前の記者会見で、セルビアコソボ自治州が独立を宣言したことについて「国家として承認する要件が整っているかどうか、よく見定めたいが、今回の一連の経過にかんがみれば承認する方向だ」と、日本政府として国家承認する方針を明らかにした。


特に反対しないのであればなおさら、時間を稼いでみてもいいのではないのか。 ご祝儀気分でやることはないと思う。


しかしこう、この独立の意味というか余波はどこに来るのか、がよくわからないのが非常に不気味。おそらく世界中の非常に多くの人々が、おめでとうよりも前にほぼ間違いなく混乱の予想を立てた独立と言っていいのじゃないかと思う。すごいわ、なんか。


で、この不安感はカナダにとってはなおさら、という状況らしい。

カナダ政府はまだ独立を認証していなくて、するにしても最後の一団として認証するだろうと考えられているらしい。1)
以前にセルビアからモンテネグロが独立した際にもそうだった。


その理由は一応もっともらしいところでは、カナダにもケベック問題があるので容易に民族独立原則だけで独立を支持するようなスタンスは取れなんだよ、というのがある。スペイン他の欧州非中心と同じ。

が、それはまぁ、このほんとにもっともらしい話で、実際問題ケベック問題という問題は国内政治の駆け引きとしては存在しているけど、今現在及び向こうしばらくこれが本気の問題になるとは普通まったく信じられていないから。ケベックの人たちに聞けばわかるが、普通の大人はどちらかと言えば、すわ独立か、といった話には迷惑しているといっていいかと思う。別にカナダに不満があるわけでもないのに、まるで反逆者みたいに扱われてそれによって痛くもない腹を探られ、さらには、実際なんでもないとわかっていてもいちいちビジネスにも差し障る、迷惑だ、と。

そもそもカナダは連邦制度で、ケベック州はかなり独立性が高い。移民制度から各種の法律までケベックだけのものがいっぱいある。その他のカナダに住む人々に適応されるものはたいていの場合、「○○○(但しケベックを除く)」といた具合になっている。ひっくり返せばケベックは独自の決め事がある。要するにほぼ外交権だけがオタワ一括で、その他は州ごとにという原則を最大限利用しているのがケベック。この原則内でなら、例えばケベック独自のオリンピックチームでもサッカーチームでもなんでも作ってnationとしての一体感を味わえばいいんじゃないの、とかまで言う人もいる。(それはいきすぎだという人もいる)


そういうわけで、この問題は緊急性は全然なくて、緊急性が高いのは、アフガニスタンとのからみか。

コソボ独立とかいったって、八方まるく治まっての独立じゃなくて一方的でぶっちぎりの独立なわけだし、ま、このぶっちゃけ独立といったって独立できる余地は経済的にも仕組み的にも全然何にも揃ってない。だからEUから民生と軍の支援を送って、その上にイギリス軍が兵隊さんを出すらしい。
で、現状は恐らく戦闘はないだろう、という予想で動いているもののもし何かあればNATOによる軍事支援がさらに必要になるだろうとは誰しも思うところ。


そうすると、今現在アフガニスタンへの増派を巡ってカナダが支援を叫び、しかしNATOが聞いてくれません、という状況が悪化する。

・カナダはアフガニスタンで、2002年以来軍人77人と外交官1人を犠牲にしている
・カナダだけでなくNATO全体として、増加状況にあるカウンターインサージャンシーに対応できておらず、その中でとりわけカナダ、イギリスのいる南部の治安は悪すぎる

というのが現状。今日も自爆テロがあってカナダ軍に負傷者、アフガニスタンの民間人に怪我人が38名出たというニュースが流れていた。


これに対してフランスがいる北部はあまり悪化してない。カナダとしてはだから兵を送ってくれと言っているが聞いてもらえない。

NATO内での統一も取れてない模様だし、さらに問題を複雑にしているのはNATOとは欧州軍じゃなくて大西洋軍なわけだが、欧州諸国の一部では根強い欧州軍志向がある。すなわちアメリカを除いた軍にしたい、と。これがどの程度現在の問題に関与しているのかは不明ながらも、多分関係なくはなさそうで、さらにそういう動きを常にリードしているのはフランスで、カナダがお願いしてるのもフランスで、とフランスが注目されている。

Will French military ambitions affect Canada's objectives in Afghanistan? 2)
フランスの軍事的野心はカナダのアフガンミッションに影響してくるのか、との記事も出ているが、どうなるのか予測がついていない。


で、その状況を受けて、なのか、それともそれはそれとしてなのか難しいところだが、アフガンミッションについての見直しを野党リベラルが与党保守党に迫っている。曰く、他の国がカンダハール周辺を引き受けてくれるなら与党が言っているアフガンミッションの延長(当初2009年だったのを2011年)を認めてもいいよ、と。

しかし現在のところのNATOではそれが難しそうだと見える。ということは2009年でお終い、すると今年あたりにその計画を?となるのか否かになって、これが今月末に話し合われその成り行き次第では総選挙かと言われているがどうなるか今のところ不明。

個人的には、こういう軍事関係の問題で、まして相手国のある問題で与党をゆするというのはあまり賢明に見えないので、泥仕合になるのかな、など予想。


どうなっていくんだろうか。
コソボもなぁ。カナダはコソボ紛争の際に結構な数のアルバニア人を難民枠で引き受けている。だから昨日もその人たちが喜びのデモ(ラリーという。示威行動的ではないから)をしていて、カナダ政府に承認を、とか言っていたようだが、政府は上の通り慎重、でもって、一般人の反応は相当に厳しそう。アフガン問題があることを理解している人が多いことと、独立しても自前でやっていける素地がほぼないのに独立しようとして、結局回りの支援を当て込んでいるという態度に対して厳しいから、という理由があると見える。ここも独立まで長かったし、大国ではないからこういう考えは結構ガチ。

言い方を変えれば、イギリスとかフランスといったそもそも小国をハンドルする、操作することに対して、歴史的に何の屈折も、何の感慨もない、という国は例えば対象主体が本当に自律的に自立できると思わなくても形を作ることにやましさがないが、小国民は目線が低いから、それはおかしいと感じる。これは援助される側にしてみれば「しみったれ」に見えるだろうが、庶民的善良さの表れなんだろうと思う。

で、興味深いのは日本。戦前からここまでいずれの時代でも結局のところ大国の一つとしてカウントされているのに、メンタリティは国ごとカナダの民衆と同じにみえる部分もあるし、そのどちらかと言えばしみったれた方針こそが最終的に他者に力を付けることの支援となると深く信じているのが我々ではないのか、と思えるわけだが、でも、なぜだか政府の行動が結構な旦那風。しかし旦那はハンドラーとは違っていて、結局それは庶民の善良さの続きでしかない。こ、これでいいのか。


つか、多分、この「しみったれ」の前途ある方針、具現としての自立支援型の日本と世界の関わり方というのはいかにも日本人に合っていたし、それが間違いだったとも全然思えない。が、なぜだか国民はうかつなことに政府をその同じ規律で締めるのを忘れた、というのが我々の犯した間違いだったのかもしれない。その結果ハンドラーのように大盤振る舞いをしたがる、援助される側から見たら寛容な人々を外交に回しているものの、本人たちも資質的にハンドラーの冷酷さを持っていないし、そもそも国全体でそのセンスを保持できない(例えば、彼は失敗するだろう、しかしその後私たちは実を取る、だから彼らを応援する、後のこと?選んだのは彼らだ、とかいう作戦をやすやすと遂行できるか?)国なので、この寛容さは意味がない、と。


1)
http://www.theglobeandmail.com/servlet/story/RTGAM.20080218.wkosovo18/BNStory/International/home

2)
http://www.theglobeandmail.com/servlet/story/RTGAM.20080214.wwfrance14/BNStory/Afghanistan/home

 旦那も問題だが


旦那には太鼓持ちがつき物だ。
そうだ、この太鼓持ちの調子のいい言葉をなんとかしなければならない。

上のコソボ問題についての読売の社説。

 新生コソボを承認する予定の日本にとって、できることには限りがある。しかし、コソボの混乱がバルカン地域全体、ひいては世界の安定を損なうことがあってはならない。日本としても、何らかの支援の方途を探りたい。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080218-OYT1T00687.htm


支援の方途なんて探らなくていいから、この余波で自陣に不利になる事態は何かを考えよう。自分が立っていられなければ、他者を助けることもできない。


自分が立てなくなる可能性があるかもしれない(常に誰にでもある)ことに全く気遣いがなく、しかし自分が方途を探るわけでもない(提案があるわけでもない)、という状況は、つまり、旦那がいる限り私の仕事はだって安泰よ、という太鼓持ちスタンスだからこそか。


ぶっちゃけ、バルカンに首を突っ込むほどの体力も経験も日本にはないと思うので、幸いと思って黙って他諸国の状況を確認することが最良だと思うが。

 EU内も問題

 デンマークのリツァウス(Ritzau)通信は、同国のペア・スティー・ムラー(Per Stig Moeller)外相が、EU加盟国のうち12-15か国が22日までにコソボ独立を公式に承認するとみていると伝えている。

http://www.afpbb.com/article/politics/2352854/2656771


上のカナダがらみのフランスの様子を念頭に置きながら考えると、EU内でも今後意見が割れていく可能性ってありそうだよなぁと。

5年ぐらい前は、もう対ソ戦略だった団体は終わりだからさ、あはは、みたいな調子もあったが状況変わってるし。しかし、変わらず欧州フランス軍に栄光を、とかいう国もあるし。大変。

 フランス、元気


朝起きたらフランスがアメリカに喧嘩売ってた。


フランス銀行のノイエ総裁が、アメリカのFRBは金融市場の混乱に対応して利下げしたけど、それって大きすぎるし急すぎでしたよ、とスピーチで言っていたらしい。

これだけでも、普通中央銀行同士はそんなことをおおっぴらに言わないそうで、驚かれている。


さらに、別の記事によれば、フランスの銀行は健全、大きな損失は出しましたがそれは世界中の銀行と同じ、フランスの銀行の構造は強いし、あんな事件の後だって資本は潤沢です、と語っているらしい。


確かに、元を正せばアメリカの金融セクターが詐欺まがいの商品を売りさばいたのが問題ではあるけど、でも、フランスの銀行も売ってたでしょ。さらに、フランスの銀行といえば、今や世界中の人が知っている、一人の男の歴史に残る多額の損失と、その処理の断行が欧州の突っ込むような株価の下げに繋がり、それがまたもしかしたらアメリカのFRBの緊急利下げの必要性につながっったのではないのか、といったことがつい3週間ぐらい前にあったはず。


それらを全部ちゃらにして、そう来るかぁと驚く。
素晴らしいのはフランスの銀行システムではなくて、事態をこう解説して自分を誇ることができるという精神性の方ではないのかとちょっと感心。


でも、そのうち「間違って」空爆されるんじゃないかという気もする。


http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601087&sid=aHVtzMqt3jRw&refer=home


ただ、ブルームバーグの解説によれば、アメリFRBは適宜金利の上げ下げを断行できるし、そうした。一方欧州は、アメリカの利下げ以来下げ圧力が高まっているにもかかわらず、インフレ懸念もあるために(というより、各国まちまちだという問題がもっと深刻だと思うが)それができない。一方で欧州各国の景気も下振れリスクが見え隠れ(これも各国まちまちに見える)、そして金利が高いままならその分ユーロ高への圧力にもなるから輸出牽引はどれだけ好調でも不利・・・といった状態なのでそういうことを言っているのだろう、だそう。

そうだと思うが、それにしても、彼我の差を感じずにはいられない。

そして、大西洋がぐんぐん広がってる。