自己裁量と私の能力:支払い慣行のお話

米国のクレジットカードの話
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2007/05/post_0f46.html

毎度finalventさんのお話ばっかり拾ってくるようで申し訳ないんですが、今日も興味深く読ませていただいた。


今日はとりわけ興味深く思いました。そうそう、日本とアメリカ(カナダも)における、お金をどう払うかにまつわる、当座の支払い方法というよりも、それを支える流儀、いわば「金払い慣行」って同じではないよなぁとかねがね思っていたから。

ざっけて言えば、日本におけるそれよりもアメリカ(カナダも。なので北米と一括する)におけるそれは、よっぽど意思と頭(計算能力、知識等々)が必要だ、というのがこれまでの私なりの結論か。

別の言い方をすれば、意思と頭がないと北米の方がより支払い地獄に陥りやすい、とも言えるだろうし、同じく、意思と頭がある場合は、よりファイナンス、つまり、お金を融通してもらえちゃう、万歳!となる、と。

まず、なんといっても大きな違いじゃないのかと思うのは、一般に銀行口座からの直接引き落としなる制度がつい最近までないに等しかった。今でもこれはメジャーな仕様ではなくて、メジャーなのは小切手決済。企業間の支払いでも個人の支払いでも、とにかくチェック(小切手)が基本。

基本に思えない北米在住者は、おそらく自分のお給料は銀行振り込みでもらっていて、公共料金、クレジットカードなどをすべて口座引き落とし、pre-authorize(事前に承認)とかにしてしまっていて特に問題がない人のみかと思う。こうした方は、古い居住者ではないと思う。pre-authorizeの仕組みが普及してきたのはインターネットの進展と軌道を同じくしてんじゃないのかなと思えるから。


で、小切手払と日本の口座引き落とし流儀とでは何が違うのか?

抽象的にいえば、自ら支払うか、取られるか、の違いではなかろうかとあえて言ってみたい。
も少し具体的には、いくら払うかを自分で決めるのと、決められた額を取られる(引き落としされる)の違いとなる、と。

つまり、前者の仕組みでは、請求書が1000ドル(約12万ぐらいか)払えと言ってきても、自分は100ドルしか払わないということが可能だ(利息はつくにせよ)。一方、口座引き落としの流儀では、事前に申し合わせなどがあればできるだろうが、基本的には請求額を問答無用で引かれてしまう。

北米のクレジットカードは基本的に「ミニマム・ペイメント」型です、と言うらしいが、それはこの小切手決済慣行があるからこそそうなったものと言えるのではないかと思う。
http://www.orico.co.jp/school/class/bean/world_02.html
(オリコ、世界のクレジットカードアメリカ)


具体的には、例えば、クレジット総額、つまり借金総額が1000ドルあったとして、その請求書には普通、支払い期限日と共にミニマムの支払い金額なんてものが記載されている。例えば、今月のあなたのミニマムは50ドルですよ、みたいに書かれている。で、個人は自分の裁量で、ミニマムなんて関係ない、俺はいっぺんに払うと思えばそれもよし、今月はちょっとなぁと思ったので100ドルだけ、いやいやミニマム50等々と自分で支払い金額を決めて、自分のチェックを発行して郵送する。
(口座からの直接引き落としじゃなくて、口座を通してオンラインで支払うという手もこのごろあるが、それも基本的には自分で額を決めることが可能。だって引き落としじゃないから。)

ちなみにミニマムを期限内に支払っている限り、クレジットスコア等々その人の支払い実績がどれだけきれいかという問題で汚れはないということになってるようだ。

ということは、そのミニマムに従って支払っていると、実際のところ多分なかなか借金は減らないだろうことは容易に想像がつく。なんつってもクレジットカードの利息はかなり、相当、びっくりするほど高い。

ミニマム支払いは、今月ピンチだわ、の人を救うと同時に、いつまでも支払いをさせる=利息が稼げるというわけで貸し手にとってみれば、意思の弱い人向けの優しい罠とも当然言える。2)

きつい言い方をすれば、自ら考えて、自らの裁量でちゃんと支払ってるわ、と認識する各個人は、その個人のもうひとつ大きな支払い能力が十分でない時(資産だけでなく、全体ピクチャーを理解しているという点の資質でも可)、自分が想定、想像できる以上の事態に容易に巻き込まれるかもよ、ということ。


さらに悪いことには、どこもかしこも、自社で自前のクレジット機能付きのカードを出していて、いいんだよ、あんたウチのカードで買えば、となっている。例えば、デパートとかガソリンとか、なんでもいいんだがそこのカードで買う、と支払い時期には、それらクレジット系の請求書が何枚も来て、個人はさてどこから払おうか、と自分の手持ち資金と相談してチェックを書いていく。この際に、ついつい当初は翌月全部支払うつもりだったものまで、あら、今月はミニマムで、になっていくかもしれないわけだ。

そうすると、わずか100ドルのお買い物だったし、現金で払うつもりだったのにたまたま現金がなかっただけなのに、のものまであれよあれよと、いつまでも支払いが完了しない=利息払いっぱなし、となる可能性は増大する。

各種リテールもファイナンスでも儲けたいんですという傾向がありありで、ちょっとうんざりするほどではあるけど、比較的低くない金利が見込まれる以上、お金を集めることに企業が奔走する合理性は実際あると思う。

(さらに、finalventさんが元ネタにされていたNYタイムズの記事内にもあったが、なににどう利息がついているのかよくわからないケースもある。確認しない個人が悪いわけだが、例えば、1万5000円の請求が来て期限通り払ったつもりだったのに翌月50円とか、そういう半端な請求書が来たりする。つまり利息が貸される期間が自分が考えているよりも早い場合があるか、最初から全期間利息対象期間だったりとかあるみたいだ。で、その半端な請求書をどう払うのよ、と思ってるうちに、ついでだからそのデパートでまた買えばいいわ、なんて発想してる自分がいたりする ~<~ ;)。現金で買わせるより、つながってるという意味でもいいんだろうなぁと思う。)

で、もしそういうクレジットカードを何枚も持ってるとどうなるか。毎月きっちり支払ってるつもりでも、なかなか減るわけない、に容易になる。クレジットヒストリーは汚れてないがずっと払ってる人、って、逆にいえばファイナンス、つまりお金を融通する側からはとてもいいお客さんで、上の()内の心理的な相乗効果もあり、そうであればこそリテールはカードを配るだろうなぁなんても思う。


よーするに、現金払い、一回払いの発想がなくなってくると、気づかぬうちに利息の海にどぶんだ、などといってもいいかと思う。で、その海から逃れようと、まとめて借りる、借り替える、といったことをするんだが、ここでも、毎月の支払いが自己裁量によっている限り、やっぱりねぇ、この、なかなか、になるんじゃないのかなと私は思う。

もちろん、しつこいけど、自分で毎月きっちり計画的に自分の支払いを管理していけてる人、または、大きな借金(住宅とか)以外は基本的に現金かデビットで払うとかいう頭の人、つまり意思と頭のある人にとってはどうでもいいんだが、そうでもない人にとっては、自分の欲をコントロールする機会が表面に見えにくい、わかんなくなりがちだ、という仕組みは確かにあると思う。


それに対して、日本の場合って、思えば一般にリボルビング払いとなっているものも自由裁量支払いではなくて、単純に分割払いのことをそう呼んでる・・・といっていいんじゃないかと思う。この場合は、例えば毎月15000円みたいに支払わなければならない額が決まっているので、個人はより返済計画が立てやすいし、なんつっても引き落とされてしまうから、ほんとーにお金がないという状況でない限り支払いは滞らない。滞るという点で、強烈なアラートを投げられてるとも言える。


ではなんで銀行引き落としにしなかったのか@北米。

従来の一般的見解は、そんな恐ろしいことできない!だったと言っていいかと思う。引き落としされたら終わりじゃない?というのと、銀行は間違うから、ってのもあった。実際、確かに、あるんだこれが。歴史的にチェック決済機能が発達してしまったのでもう引き返せなかったってのもあるのかもしれない。

チェックというのは実際、過去においては考えられる限り最善の個人防御決済手段だったのかなとは思う。最終的に署名のある所定の紙をやり取りしないとならない、というのが肝で、トランザクションが一回では終わらない。つまり発行して郵送して、受取人がそれを銀行に持っていって銀行が本人確認して、銀行は交換所みたいなところに持ち込んで相手方銀行と取引を成立させて、それで取引完了という各段階にエラーの可能性もあるとも言えるが、逆にはそれらすべてをクリアしないとお金が動かないという意味で、不合理によって安全を守るということなのかなと思ったりはする。(逆には、動いたら元には戻らないという覚悟の上に成り立ったのかもしれない)

しかし、ここに来て、オンラインバンキングが普及したおかげで、個人はなんなら買い物のたびにでも自分の口座を自分で確認できるようになった。そのおかげで、引き落とし(事前承認型)もいいのかも、チェックは面倒だ、と考え出した人も結構いる模様。今までだとここにタイムラグがあって、一般に口座の通帳の記帳ってのもないから(月締めでステートメントが来る)、感覚的に個人は取引をトラックダウンできていなかったと言えるかも。1)
(各事業はだからこそマジで自分んちで元帳を付けてる、と。)


そういうわけで、やっかいな言い方だけど、クレジットカードと支払いに関する諸々の問題の日米の差異は、決済方法を支えるものの考え方とそれを仲立ちする決済機関(だいたい銀行)の機能と信用度の問題が根本なのかなと思う。

そして最終的には、なんにつけても頑強な意思と人を出し抜くほどの知恵のある人には幸いを、それ以外の人にはそれなりに、という北米原則の見本のような仕組みではないのか、などとも思う。


1)ただ、そうはいっても、どうあれ間違いが頻発する、間違っても苦情を持ち込まれない限り自分(企業側)から直すってことは期待されていない、間違いが発生した場合個人は闘争する必要があるっていう土壌は健在・・・。
この間あった具体例。
デビットカードで買い物して、2回スライドしてしまった。1回目でOKのレスポンスが出てこなかったので、あれなんかのトラブルねと店員さんは軽く2回目のスライドを私に要求。私は1回目がスルーしてないというけど、無効である確認も出てきてないことから(普通出る)、多分2回落とされたなと思った。しかし店員さんが、コンピュータってトラブルあるからさぁとコンピュータが魔法の箱らしかったので、こりゃ時間がかかりすぎるとその場での争いを止めて、自分んちで口座を確認して2回引き落とされてたことを確認して、そのリテールのカスタマーサポートに電話。すると、その店に行って、といわれる。

で行った。とりあえずこういう場合の原則としてマネージャーを探してお話。で、彼は私が言ってることを理解し、私もまたレシートだけでなく当該部分の口座取引をプリントしていたので事態は明瞭。口座の重要項目をマジックで消した上でそのプリントをマネージャーのにいちゃんに渡し、にいちゃんは月曜には電話するといった。その日は金曜。カナダにおける一般原則のひとつは何事も金曜午後には進まないと思うべし(笑)なので、これはまぁ了承。

さてしかし待てど暮らせど電話はなく、翌週また行ってマネージャーを名指しで呼びつけて苦情を言う。その場で別の多分経理関係の人とぐだぐだやって、結果的には、デビットカードの逆で、ダブった分の額をその場で私の口座宛にクレジット(この場合は預金)として送金。5分で出来ることじゃんか!だったわけだが、私が再度行かなかったらそのままだっただろうな、やはしとは思う。
(販売した製品そのもののコードは読まれてないんだろうか?という疑問も残る。ある物品が2回売り掛けにつけられてて平気なものなんだろうか・・・・。2分差ぐらいで)

引かれると面倒くさいことになる、ってのは今でも生きてるわなぁと思った。そうであればこそ、支払うのは後、自分のイニシアティブで、という気になっていったんじゃないのかななど思う。


2)補足
ミニマムペイメントを支払っている限りクレジットヒストリーには傷がつかない、ということは、原則的にクレジットヒストリーを元にクレジットカード発行の可否を決める現在のシステムでは、本来的にはもう支払い限界を超えてると見るべきではないのか、という人もクレジットカードを取得できる、ということになる。となるとますます・・・大変なことになる。
例:
5万、15万、30万、80万と合計100万の借金がある人でも、ミニマムペイメントの総計は、例えば2万円ぐらいかもしれない。であれば、当座、支払いは継続できるだろう。が、しかし、ホントの総計はでかい。


それに対して、どー考えても支払い能力がある人(例えば日本からの駐在員さんなんかがいい例だが)でも、ヒストリーがないとクレジットカードは作れない。
(作れないといっても、銀行に預金をして3ヶ月待つといった仕様で作れるから少し待たされるというべきか。)


3)さらに思い出した。
リテールのクレジットカードとして使えるカードは、既にクレジットカードを持っていればそれに依拠する形で発行しているように見える。つまり、A店のカードをつくりましょ、という場合に、クレジットカードお持ちですか、となって持ってるとそれと連動させてその時点で審査OKにしていると思う。少なくともそうやって作ったカードは確かにある。

ということは、現状は、どこかで1枚作ればその他の各リテールのクレジットカード機能、つまり借金機能をどんどん使え、かつ、上のように支払い要求はミニマムだ、と整理できるか。自分の能力を把握できない人にとっては、そりゃもう大変な仕組みと言えるだろう。