首相の二重国籍問題よりも・・・

クリスマスまで、あるいは冬至まであとちょっとという時点となり、世の中はなんとなくざわついている。とはいえ、先週すーーんごい寒い日々がありもはやリターンできないポイントになったかと思わせたのもつかの間、天気予報の予報通り今週はめっぽう暖かくて、7、8度まで気温があがった。こういうのは体調に悪すぎる。


と、メジャーな問題に頭を突っ込むのはタイミング的にどうも具合が悪いからなのかどうか(プレゼントとパーティーの招待状の方に割かれてるんだもの)、小さいようなしかしながら重要ではある問題がちょっとした焦点となっている今週のカナダ。


10日ぐらい前にリベラルという過去13年間与党であったが今年の初めに野に下った大きな党の党首選が行われ、そこでステファン・ディオンという人が当選した。この名前から分かる通りフランス系の、つまりケベックの人。

で、ディオンはお母さんがフランスの生まれなのだそうで、従ってその息子も誕生を起因とする市民権を持っている。そういう人はいっぱいいるのだが、しかし、首相になる可能性がある人が二重国籍って、ありなのか?というのが焦点。


前にもいたじゃないか、なんでディオンだけが悪いっていうんだという反論もあるのだが、前の人はイギリスに生まれたことにより大英帝国の臣民だった、でカナダに移ってカナダの市民権を持った、でもってそれはもうだいぶ昔の話だし今回のケースとは違うだろうなど言われている。


今日現在の感じでは、一旦この問題があいた時には、メディアを通してあるいは記事の下にざらざら付いてるコメントなんかで、そんなの問題じゃない、それを提起してきたハーパー首相は小さいやつだ、ふん、みたいなコメントが目についたのだが、1週間たってみたところでは、批判の方が結果的に強かった模様。各種メディアのコメンテーターもかばえないと見たのか、それとも元々そうだったのか批判的な様子が見えるようだ。おそらく、家に帰ってみんなで話したらだいたいみんな批判的、みたいな感じだったのじゃなかろうか。


トロントスター紙のコラムニストがその件で出てきた人々の意見を拾っていたのでご参考までに。
Double standard for dual citizenship
http://www.thestar.com/NASApp/cs/ContentServer?pagename=thestar/Layout/Article_Type1&c=Article&pubid=
968163964505&cid=1166008028404&call_page=TS_GTA&call_pageid=
968350130169&call_pagepath=GTA/News


私が見たところでは、この問題は、二重国籍問題だけじゃなくて、つまり首相は自分の国を一意に代表しないとなんないのにどこかの国の国籍を持ってるって、やっぱりへんなのじゃないか、というだけではなくて、ディオンがそのことを真剣に考えたか、それを深刻だと気づいてなかったようにしか見えないんだが、という点にもあるように思う。


という私はこんな騒ぎになる前に、このディオンさんがある番組のトークでこれを話しているのを偶然見て、しょえええと思ったから。で、結果的にこの番組での発言がこの問題の発露、暴露、エクスポージャーのきっかけになっていたみたいだった。


そもそも二重国籍を持ってることは知られていたんだろうし、簡単に予想されてもいたんだろうが、その上で司会者が首相の候補が二重国籍というのは問題じゃなないかという声もありますが、とふった。すると、ディオンさんたら、何が問題なのかぜんぜんわからない、だってこれはお母さんからもらった大事なものなんだし、カナダには二重国籍の人たくさんいてそれで法的に問題ないんだよ、それなのに何が問題なのぉーーーと、その態度の軽いことといったらというしかないリアクションを起こした。


私としては、誰なんだこの人を党首に選んだのはと咄嗟にそう思った。問題に対する答えはともかく、一般の人と首相の役割って違うんだよ、という押さえが全然ない男ってどうよ、だし、仮にも一国の首相となることを想定に入れて登場しているのに、お母さんがくれた紐帯みたいなのと、国民との契約が図りにかけられちゃうって何よ、と思うのだった。


その上で、私のカナダへの忠誠心はもちろん100%だし、とか言ったのだが、私は咄嗟に、じゃあなにかフランスは0%の忠誠心の人に市民権を出すんだなと頭に浮かんで笑った。ディオン、軽すぎる。そもそも、不利なことを言い立てられて口とんがらかす、よくいる市民団体のおばさんみたいなリアクションしか起こせない男なのか、という失望感を持った人もいそうだ。


これはただではすまないだろうなと思ったわけだが、1週間たってやっぱりそうなっていた模様。


あと、カナダの首相になろうとしている人にとっては皮肉なことだがこれって多分イギリス的というか、経験論的、あるいは慣習法的な国民にとっては、論理的、あるいは法律論的な問題だけが問題のあり方ではないというという一般原則(私が言ってるだけだが(笑))をディオンというフランス系市民は理解できていないのか、と見てみることも可能かとも思う。


どういうことかといえば、たいていのことは法律とか規則が決めてそれを守る、守らないというだけが問題じゃなくて、またそれは品下ることであって、個人が自在でかつ則を超えないというのがより素晴らしい、といういう感触があるということ。つまり、自発的にそれをしない、法は許しても、あるいは逆に、自発的にそうする、法はそれを求めないが、というのが賞賛される土壌があると。


で、この土壌に立って人々はこれはおかしいと言うわけだが、当の本人は法に従ってるんだから文句はない、と、しかもちょっと幼稚な言い方で言ってしまった、と。それで彼自身に対する信頼はゼロになり、だからこそむしろ彼にはフランス国籍の放棄を求めない、という経緯も想定できるような気がする今日この頃。が、知ってから知らずかディオン氏は、首相になって自分の二重国籍が問題だというんであれば放棄も考える、みたいなことを言ってる模様。


これは彼の資質を試す時期なのだ、ということであればかなりの失点だろう。兵は志願兵を基本とする、ってな土地だったんだから気づけよとかも思う。ディオン氏がどれほど立派な政策を持とうが・・・という展開もなくはないのじゃまいか。リベラル、痛い失点だと思う。


さらに、これは副次的な問題ではあるのだが、ディオン氏のエクスポージャーによって、氏がバイリンというより非常にフランス語的な人なんだというのが明らかになってきているのも痛いかも。インタビューを聞いて思ったが、氏のフランス語アクセントの英語はひょっとしたらケベック州以外のところのカナダ人にとっては限界を超えているかも・・・? 


そもそもそういう議員はたくさんいるが氏は単なる議員ではない。また、これまでもフランス語圏の首相はいっぱいいるが、例えば直前のマーチン氏はケベック育ちの人だが英語ネイティブとも言えるある種完璧なバイリンガルだった。また氏は今考えてみればさすがに大金持ちの元々上に立つ人として育っているからなのか人を説得するために言語を(うるさいぐらいに)使うという態度がありありだった。

しかし逆に、逆境的に貧しい生まれだったという話のその前のクレッチェン氏は、極めて耳につく、その意味ではディオン氏以上にフランス語アクセントが強烈だったし、身体的な障害も若干伴っているたので言語に関しては英語圏の人々に対して非常にハンデのある人だった。

が、それを凌駕する言語能力があった。まずだらっとしゃべらない。べらべらしゃべる時には相応に理由があってわざと、くどいほどにやってるのがわかる。でもってこれが落としどころだと思ったらロジックを強調するしゃべりをしていた。とぼけていても目標があってしゃべる、ポイントをしゃべる、という感じか。政治家歴が長いのと弁護士だからなのかもしれない。つか、この武器が強力だったからその貧しい背景にもかかわらずかわいがられて(使われてでも)取り立てられて来たのかもな、とか思う。好き嫌いは別として、あるいは多分汚いことも盛りだくさんらしいんだよな、という状況も別として、この人は確かに何者かだったと思う。


で、これまでのところのディオン氏を見ていると、英語圏フランス語圏の両方をネイティブにしているというより、フランス語ベースで英語は翻訳みたいな気配が濃厚か。やっぱりさすがに拘ってるだけあって、本当の紐帯はフランスってことだからさ、あの人は、とか言い出す人がいても不思議はないかもしれない。つまり、例えばブッシュ(笑)にフランスの国籍が付いている、という話じゃなくて、そもそもこの人があまりにもカナダ的(あるいは、控えめに言ってイギリスオリジン的)というよりも、フランスオリジン的だ、というところにディオン氏にとってアゲインストがあるのじゃないかと思われ、ではあるのだ。


簡単にマルチカルチャーとか言うけど、それはそれなりに工夫して一体感を保ってるということではあるんだなと思わされる。わかれよ、ディオン。

 ダビンチ・コード

まったく今さらだが先週から今週にかけてダビンチ・コードを読んだ。まったく今さら。本を持っていたのだが積読状態でそのうちそのうちで今になった。

ダ・ヴィンチ・コード〈下〉

実際読んだのは英語版のペーパーバックなので表紙が違うんだが、そうか日本語だと上下巻になるのかとちょっと驚き。確かに分量多いような気はする。が、しかし、京極夏彦が1巻であるようにこれも分厚い1巻でもいい気はしないでもない。いや、どうでもいいんだが。


京極夏彦が出たのは偶然ではなくて、読みながらこれは京極夏彦が面白いように面白いと感心した。とかいうと外国びいきの人は比較がおかしいとか言いそうな気がするわけだけど、でも、基本的に同じ線かなとか思う。いいわぁ、こういうの。


ちょうどこのへんを思い出させられた。

文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)

文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)